※この日誌は、蒼天のソウラ二次創作です。
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賢者の石を巡っての魔女達の争いは、悲惨だ。
魔女になれば、種族の寿命を超えた長命を手に入れられるが、近年の魔女達の中で長命はさほど重視されてはいない。
なぜなら、ただ生き永らえるだけならまだしも、得た魔の生は常に魔女狩りの危機と隣り合わせのものだからだ。ゆえに、まともに残りの人生を謳歌する…など、夢物語に近い。
そしてその長い寿命も、魔瘴の摂取によって日に日に身も心も魔に染まっていき、最後には完全に魔物へ落ちていく。
魔女達の間で魔瘴落ちと呼ばれるリタイア組はその後完全にアストルティアから敵とみなされ、世の平和の為に討伐され死んでいく。最も、魔族が敵視されない世の中でも来れば、その軋轢も解消されるのかもしれないが…。
魔女への変性の方法を最初に広めた者は、さぞ絶望したのだろう。
結局のところ、魔族になる事でしか、種族を超えた不老不死は実現しないのだから。
今よりももっとずっと昔から、魔族はアストルティアの敵だった。魔物だけはかろうじて動植物と同じ程度のカテゴライズだったが、それでも世間からの認識は敵視でしかない。
そんな時代で、何を好き好んで魔物になるしかない魔女に身を堕とすのか。
答えは簡単だ。種族の寿命を差し出す代わりに、種族を超えた力を手に入れられる"可能性を得るため"に、魔女を志すのだ。
皮肉なことに、長き命を手に入れるための手段であった魔女は、寿命を削って力を得る逆転の現象を起こし、多くの短命な魔女をこの世界に生み落とした。
ゆえに、賢者の石とは血塗られた魔女の歴史そのものであり、同時に勝ち組の証であった。
苛烈すぎる競争を勝ち抜き、多くの屍を踏み越え、寿命を削ってでも成し遂げたかった何かを成し遂げ、そして長き寿命を再び取り戻せたのだから。
魔女の最も恐ろしい点は、凡庸を超えた魔術を扱う事でも、種族を超えた寿命を持つ事でもない。
人の道を外れ、世界を敵に回し…それでも成し遂げたい『何か』のために、寿命を捨てて得た力を以て文字通り全力で進み続ける、狂気と執念なのだ。
だからこそ、魔女を討つならば、こちらも全力で迎え撃たなければならない。
そして私は、死ぬわけにはいかない。生きなければならない。
生きて、マスターが為す筈だった功績を。斃す筈だった蠢く悪意を。守る筈だったこの世界を。私が継がねばならない。道半ばで死ぬことは、許されない。
なぜなら、マスターを殺したのは、私なのだから。