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英雄の魔女

リンドウ

[リンドウ]

キャラID
: HS978-681
種 族
: 人間
性 別
: 女
職 業
: 魔剣士
レベル
: 123

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リンドウの冒険日誌

2020-06-20 19:00:03.0 テーマ:その他

【過去編】第5話『もしも光を越えたなら⑤』


「イカレがよ…!お前も死ぬぞ…!」
「仮にそうでも貴女を殺す。」
「そこまで…そこまで私が憎いのか。」

禁呪を使ってまで、私を滅ぼしたい?復讐を為したい?
たとえその後に、何が残らずとも?

いや…違う。元からそうなる運命だったのだ。
復讐者とは、己すら復讐の業火に身をくべて燃え続ける者。今更自分の身可愛さに禁呪を躊躇うほど、アザミも耄碌などしていない。

「あなたは…いつも私を置いて先に行く。
 私はいつもあなたが羨ましかった…そして憎かった。永遠に追いつけない、夜空の光。そして私は、そんな星に届かないと知りながら、哀れに手を伸ばすしかない、眺める者(スターゲイザー)。そうやって恥じて生きてきたのよ。」

「…。」

「貴女のマスターが、事故で死んだと知った時…『感謝』したわ。これで対等だと思った。追いつけると、追い越せると思った。そして今、こうして敵として堂々と憎んでやれた。それが生きる力になった。」

「狂ってんな、お前。」

「当然よ。狂っていない人間が、魔女になどなるものか。
 貴女も私も…魔法に人生を狂わされたのよ!
 お前が憎い!
 自分が憎い!
 魔法が憎い!
 全てを生んだ、この世界が憎い!」

「じゃあなんでさっさと魔法から足を洗わなかった!どうして魔女になどなった!」

どうして?
そんな事、決まっている。

「どんなに憎かったって…嫌いになんてなれなかった。ただ…それだけよ。」
「アザミ…お前…。」

その目はリンドウではなく、虚空を見るように。在りし日の想い影を追うように。
もう二度と戻ることはない、自分を、師匠を、友を、魔法を、世界を、全てを愛していたあの頃を、黒い目で見つめていた。

「さあ!正真正銘、最後の魔法よ!捌けるものなら、捌いてみなさい!」

突如、急速に解かれた重力空間。展開していた一切の魔力をグリモワに回収し、禁呪の発動に回されている。
蓄えられないほどの膨大な魔力は空間に溢れ、グリモワのページを破り撒き散らしていった。
零れた魔力の破片が制御を失って変性し、熱に、風に、電撃に、光に、闇に、音と共に魔術を予感させて来る。

そして、それは放たれる。

アザミを中心に巻き起こる衝撃波。ウェナの大地が震撼するが、それはあくまで禁呪発動の反動でしかない。
だが、周囲一帯にもアザミにも、特段変わった変化はない。巨大な火の玉が出るでもない。堅牢な結界が展開されるでもない。
それでも、地鳴りは収まらない。それどころか増々大きくなり、やがて空気をも振るわせる。

誰もかれもが、思い違いをしていた。
アザミの禁呪は、リンドウに放たれたわけでも、魔法をぶつけるわけでもなかった。

「なんっ…!!」

それは、隕石。
魔術で似せて作られた類のものではなく、宇宙を漂う、本物の隕石。

それが今まさに、アザミの頭上から大地めがけて降ってきていた。それも、今宇宙からやって来たならば在り得ないほどの速度で。


アザミの禁呪は、単純明快。


「『機械仕掛けの怪神(デウス・エクス・マキナ)!!!』」


宇宙から重力で本物の巨大隕石を引っ張ってきて、そのまま目標に墜とすだけ。


「質量兵器っ…!なんつー大きさ…っ!!」

上空からの余波で地鳴りが収まらない。夜明けもほどほどの静かな大山林が、一瞬で混沌と騒然を招き寄せた。
ヴェリナード領が巨大な影に覆われ、溶けて燃えた天隕石の破片が、黎明の空にもう一つの太陽が天空より来たる、圧倒的な光熱と質量。
質量10万トン、秒速18キロを超える速度の黒色の隕石が、今まさに目下の大地を滅ぼそうとしていた。

しかもこの方向、リンドウを狙っている訳ではない。
もっと遥か後方。隕石の軌道を瞬時に導き出し、そして出した結論。

滅ぼしたかった対象は、アザミの師を討った国。リンドウを奪った国。

アザミが禁呪の対象にしたのは、ヴェリナード国そのものだった。

「がああああああああああああああああああああああ!!!!」

そして魔女と言えど、禁呪の代償は一瞬にして襲ってくる。無茶に無理を重ね通した反動でアザミの指は割れ、血の涙が流れていく。

ここでアザミを討てば、隕石への対処は遅れ、かつてエテーネ王国を滅ぼしたとされる隕石の衝突により、ヴェリナードは完全に灰塵に帰す。
あの隕石をどうにかしようとも、おそらくアザミに隙を突かれ殺される。
選択肢はなかった。頭をフルスピードで回転させようと、出来るかどうか分からない不安は残る。

絶体絶命の危機。

だがこの時リンドウは、ある想いを胸に秘めていた。
そしてその感覚は、どこか懐かしいものだった。

こんな風に思ったことが、前にもあったような気がする。








どうして、と。
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