「あの魔女サン、目に何かしらの細工をしとるようだ。儂らの能力に何かしらアタリをつけているように思える。」
いつの間にか、トップスピードでなぎ倒してきた道の後ろからライオウも追いついていた。若干スロースターター気味らしいが、体は温まったのだろう。
「え、何それ?魔眼とか?」
「いや、単純にそういう術を目に仕込んだんだろう。儂らのように一体化しとる訳ではなさそうじゃい。」
そしてこの場には、ライティアのように後天性の半獣のような、生きるために魔物を食らい続けあり得ないほどの肉体の頑強さを手に入れた冒険者がもう一人いる。何なの?魔物食うの流行ってんの?とさすがのリンドウもこれには困惑した。
最も、力のみを得たライティアに比べ、こちらは数多の魔物の混合具合によりもっと血が濃い。ただ生きるために魔物の血肉を喰らい続けた傭兵。魔瘴を抜いたことはない。能力持ちの魔物だっていただろう。それらを全部、中身がパンクせずに人の形を取っているだけでも奇跡的である。
その生き様はまさにバーサーカー同然であり、無法者にして無頼漢。然して彼は無秩序には非ず、また狂人でもない。
「…んにしても、思ったより雑霊が多い。どれ、一回脅かしてみるか。」
あまり多人数を相手取るような戦法はしないが、それで十分だと考えた。彼は知っている。古今東西の戦に共通する戦場の常。ビビらせたら勝ちだ。
「雷皇剣・雲耀ノ太刀!!!」
それはまるで、空を走る稲妻の如き暴力。大地は砕け、周囲の家屋すら吹き飛ばす。ライオウの咆哮と共に放たれたそれは、雑多な怨霊など形を保つ事すらできず、ただ怯え竦み上がったまま消滅してしまった。彼自身は敵を真っ二つにできると言っていたが、こんな衝撃では肉すら残るまい。ミンチよりひでえよ。
「…ああいかん。あんまり村を壊さんよう言われとるんじゃった。まーたライカに叱られるな…。」
りんどーもそうだったけど、この人も身内に甘いなあと、衝撃の余波で吹き飛ばされかけた後方のかいりは思う。リンドウも、事前にねるとウサ子の傍に付かせておいてよかったと思った。
とはいえ、威嚇の効果は十二分にあったようで、目の前の道も大分見えやすくなる。そろそろ半分に届こうという地点まで来ており、このまま進んでも問題ないだろう。
「三途の川見学したい奴からかかって来んかあああああああいぃ!!!」
村全体に響き渡りそうな絶叫。ひたすら敵の戦意を奪い尽くす戦い方。全ては守りたいものを守るため。舐められる事は組織の存続さえ危ぶませる事を避けるために身に着けた処世術。
極道の道を生きる者。アストルティアからは忘れられて久しい必要悪。それが雷神会会長。若き『大侠客』ライオウである。
三人の猛進撃により、侵入開始から10分足らず。村の最奥部まで残り500メートル。