三人が怨霊たちを正面突破で文字通り薙ぎ倒していく傍ら、同じ陽動班のリンドウ、アヤタチバナ、ミャジは対照的に村の家屋を陰に徐々に身を隠しながら進んでいた。
「もうちょっと下がろうか。この分なら正面は三人に任せて問題ねえ。私らは脇道を使おう。」
「だね。…それにしても、予想以上にヤバいね、この村の怨霊。」
傍から見れば、かいり達が敵を縦横無尽に突破しているように見えるこの状況。が、実はそうではないことを、リンドウもアヤタチバナも理解していた。
「こんだけ暴れられたら、ビビってボクらから離れてくのが普通なんだ。けど臆してもいないしパニクってもいない。自分からは攻めず守勢に徹して、三人をいい距離で囲んで足止めしてる。」
かいりの突撃。ライティアの轟音。ライオウの恫喝。どれもこれも、並みの怨霊など恐怖で怯んで動けなくなったり戦場から逃げてしまってもおかしくない。だのにこの村の怨霊達はそれを一切気にせず、堅実に着実に守勢を維持して戦線を崩さなかった。もしもこれが有象無象の集まりなら、後ろのリンドウ達も身を隠して進んでなどいない。
「多分そろそろどっか高いところに…あ、いた。ミャジさんごめん。そっちでも注視しといて。ビビっても逃げてる風でもない動きをしてる怨霊を。」
「え…?あ、はい!わかりました!」
アヤタチバナが目視したのは、村の端っこ。その家屋の屋根の上だった。怨霊が留まっており…その足元には魔法陣が組み敷かれていた。
「まあ三人とも頑丈だし、一撃でやられはしないけど、回復準備、と。」
「…っ!一人じゃないです!3、4…!?」
正面から留めるのが難しく、そして村の奥に進むに従って増えていく廃屋。高低差は増え、正面戦闘に強い面々を観察するには絶好の場所だ。そして逃げてもいないということは、つまり。
「いや、大丈夫だ。」
「え…?」
チカッ。ふと、リンドウを見やった瞬間、何かが光を反射してミャジの目を眩ませる。それがステルスのように透明で見えにくく、かつ光を反射する宝石やガラスのような物体だと気づいたのはその直後だった。
次にリンドウが取り出したのは、黒い水晶を宛がったような薄い板。リンドウはそれを、光を分散させる万華鏡(カレイドスコープ)と呼んでいた。
「させねえよ。」
瞬間、リンドウの伸ばした人差し指が光り、その直後に万華鏡を通じて光が5本に分かれて放たれた。だが、ミャジが視認できたのはそこまで。次に知覚できたのは遠くで響いた爆発音であり、何が起きたかを理解できていない。
リンドウはただ何もぼうっと三人の戦いぶりを後ろから眺めていた訳ではなかった。突入直後から村全体に広く展開されていた無数のオーレリーを鏡のようにステルス化させ、光の反射を利用して村全体を監視していた。一見何もないような空間でミャジが光の反射を見たのはオーレリーによる屈光であり、水晶玉の占いの用にリンドウには屋根の上に陣取った怨霊たちが手に取るように見えている。
そして、光の反射で遠方の姿が見えるということは、同時に光の道筋ができているという事。ならばあとは、光の性質も持つレーザーを一本、飛ばしてやればそれで事足りる。リンドウの指から放たれた一本の光線は、光の速度で無数のオーレリーを介した反射を繰り返して目標へ着弾する。
それを同時に5本。敵の考えを見抜き、屈折光の軌道まで計算し、一瞬で味方の脅威を取り払う。一瞬の出来事だったが、それは紛れもなく超人技だった。
「十中八九、あいつ等は遠距離の戦闘員だってわけだ。」
ちょ、何このチーム。もしかして無敵?そんな気さえしてミャジの口角は思わず上がった。
「けど、分かるだろ?遠くを狙ってる奴ってのは、どうしても自分の身の守りが薄くなる。だからある程度、”任せるぞ”。」
「…!」
リンドウのその言葉の意味を理解するのを、ミャジは一瞬遅れる。屋根の上から襲い掛かってきた影に対応が遅れ、魔法での対処に切り替えようとする。だが。
「超隼斬りっ。」
ミャジの前をアヤタチバナが遮り、飛び上がって一回転しながら空中で影を四回斬り結ぶ。屋根の上に着地して、下の二人にも異常がない事を確認した。
「ふう…今のは魔瘴に呑まれたモンスター、か。やっぱりこの村、用心しないとね。」
それにしても、随分戦いやすいとアヤタチバナは思う。まあ、師匠が師匠ゆえ、誰にでも合わせる技術が人一倍磨かれているのは確かだが。突入部隊は前衛が多くて回復薬の自分は忙しくなるかもなあ…と、今から少しだけ憂鬱だった。
まあ、この村の古書を幾分かが報酬として貰えるのだから、この程度の仕事は楽なものだが。探索組は上手くいっているだろうか…。