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英雄の魔女

リンドウ

[リンドウ]

キャラID
: HS978-681
種 族
: 人間
性 別
: 女
職 業
: 旅芸人
レベル
: 121

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リンドウの冒険日誌

2020-10-17 20:09:46.0 テーマ:その他

【海底離宮攻略前日譚】壊れた世界、歪んだ奇跡⑯【蒼天のソウラ二次創作】


ソウラはユウリにとって、初めて出会った世界を旅する冒険者であった。
毒キノコを食べてうっかり死にかけたというそのウェディは、なんと危ういのだろうと思った。だがそれ以上に、明るくて、陽気で、気丈で、お調子者で、強い人だった。
何より、初めて見た冒険者という存在に、ユウリは久方ぶりに心を躍らせた。頑なに封じ込めていた自分を、ソウラが話しかけることで徐々に開いていった。
好きという気持ちを、自分を前面に出せる。それは彼女の冷たい牢獄に差し込む、あたたかな一条の光だった。

修行もそっちのけで忘れて語り合ううち、ユウリは自分の身の上話も零すようになった。
陽衆の娘であること。一族は陰衆と長年争っていること。天地雷鳴士という職業の事は、正式になれた訳ではなかったので言わなかった。

「じゃあさ、ユウリはどうしたいんだ?」

ふと、投げかけられた疑問。自分がどうしたいか。それを考える時間はあったが、行動に移す勇気がなかった。

「私は…マシロちゃんとも、陰衆の人達とも、仲良くしたい。それが難しい事なんだとしても…それでも、諦めたくない。」

じゃあ、それを言ってみようよ。あっさりと、難しくない事だというように、ソウラはそう言ってみせた。

「もしまた怒られそうになったら、今度は俺が守ってやるって。」

やや強引に自分の腕を握ってきた手は力強く、それでいて、あたたかかった。

ソウラに手を引かれ、陽衆の若き頭領であるアサヒのもとへ突撃していったのは、日も沈みかけた夕刻の事だった。

そこでようやっと、ユウリにも陽衆と陰衆の実情が分かった。
ユウリと同じように、両親もまたあの一件を引きずっていたらしい。
彼女の父親は、実はアサヒと同じく陰衆との和解を望む一派でもあった。但し、そのためには頭領であるアサヒに和解の象徴となる天地の儀の成功が必要不可欠であり、それまでは水面下でひっそりと事を進めなければならなかった。
父親も父親で、今の両者の下らない争いにうんざりしており、ましてそれを自分の子の世代にまで問題を先延ばしにするなどは言語道断だった。水面下で隠密に進めてきた事への張りつめた緊張感と、娘の将来への想いの二つがぶつかってしまった。
ゆえに、開けっ広げに陰衆と陽衆が交流するのは要らぬ軋轢を生みかねず、ユウリの行いに父親は大層焦り、心の荒ぶりと共に一人娘にあのような仕打ちをしてしまったという。
そしてユウリと同じように、父親もまたユウリに一歩踏み出すことができなかった。自分の事を怯えた目で見る娘の顔を見るたび、心が張り裂けそうな思いだったそうだ。相手を殴った方の拳も痛かったのだ。

それを聞いてから、心が嘘のように軽くなった。じわじわと氷が解けるようだった。

再び、3ヶ月ぶりにマシロと会って話すことができたのは、ソウラが旅立った直後の事だった。



それからは、短い間に色々あった。

天地の儀の成功によって、陽衆と陰衆の和解が成立したり。

マシロが自分の家に遊びに来たり。

逆に自分が陰衆の人と話すことになったり。

正式に、天地雷鳴士として認められたり。

ふたりで海底離宮攻略部隊に採用されたり。



そんな人生の中で、何か、心の奥底から湧き立つものがあった。

私は、変われるかもしれない。

結局自分一人では何一つ変わることができなかった私でも、陽衆と陰衆のように、変わろうとすれば変われるのだと信じたい。

いつまでも、誰かの影に隠れて生きていくのなんて嫌だ。

突入部隊への応募は、確かに自分の恩人であるソウラを助けたいと思ったからだ。今度は自分が恩を返すべきだと思ったからだ。

しかし、恩を返せるほどの実力があるかはまた別だ。下手をすれば、今までと何も変わらない、冒険者達のお荷物。自分がどこまで役に立てるかなど分からない。

だが、過去に屈するのは、自分が死ぬ事よりも恐ろしい!

陽衆の名誉も、天地雷鳴士としての知名度も、ソウラへの想いも、マシロへの感謝も、今は二の次でいい。

これは、私の戦いだ。過去のどうしようもない、無力で哀れな自分自身との決別の戦いなんだ!

「水の幻魔が司るは現世の輪廻。あらゆる力は世界を廻り、形無きものも等しく巡る。
 旧きを離し、新しきを運びし穢れなき風。死を清め、生を促す毀れずの水。
 古の勇者の国より来る五大の守護精霊。その名はカカロン。我、その力を以て、悪しき魔瘴を取り払い給えっ…!」

呼び出されたカカロンの幻魔としての力がより強く帯びていくことが見て取れる。
本来、別の次元に存在するカカロンは召喚し使い魔としてしか仕えず、完全に意思疎通を交わす事は不可能であるが…。

「行くよ、カカロン!」

彼女の言葉を聞き、一瞬だが、こちらを向いて頷いた。そんな気がした。

「奇門遁甲の式・弐…!」
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