イオリ村のクエスト後、突入部隊の中でも魔族との和解に向けて動いているという風潮はそれとなく広まっていた。
しかし、それを公に公表はできない。世界中から猛反発を受けるだろうし、まして今はグランゼドーラが魔王との決戦に心血を注いでいる真っ只中だ。
そういうわけで、和解への動きはあくまで戦争を終わらせる手段の一つに過ぎないという体で話は纏まっていた。実行に移すのは、太陰の一族などの魔族を味方にした後。そこでようやく、アストルティアが魔族との和解に前向きであることを公表できる。
「和解…か。」
簡単に言うものの、その言葉の重みをこの場で一番噛み締めていたのはライオウだった。
雷神会の中には、魔物や魔族に対して憎しみを抱く者もいる。そういうはぐれ者を抱える組織である以上、考えは次第と反対派に偏っていく。
魔族と和解をしようという動きを邪魔するつもりはない。しかし、和解の後にもう一度戦う事態になれば、迷いなく武器を取る覚悟はある。
ゆえに、ライオウは魔族との和解に反対だった。もう少し言えば、和解に反対する者達が暴走しないように適度に抑え込む、反対派の代表の立場に立つと決めていた。その役目を誰かが担わなければ…きっとどこまでも悲惨な自体に転がり落ちる。
イオリ村に参加していなかったメンバーも集まり、ギブから言い渡されていた和解という道に対して、突入部隊第一陣の面々は意見を交わしていた。
「で、そもそも聞いてみたいんだけどさ。皆は魔族との和解ってどう考えてるんだい?」
アヤタチバナの切った話の口火に答えたのはルクレツィア、次にフツキが続いた。
「私は賛成ですね~。魔族を殲滅するのも一つの手ではあるのでしょうけど~。」
「ああ、和解の方が現実味があるだろう。」
一方、反対の意見を述べたのは、エイダとデブニだった。
「正直に言えば複雑ですわ。今まで普通に敵として戦ってましたもの。急に和解しようと言われても…。。」
「私はライティアちゃんの生い立ちを知ってるからねえ…。魔族やそれに従う魔物が、良き隣人になれるとは思えない。」
さすが突入部隊に選ばれた精鋭達。感情もあるとはいえ、しっかりと自分達の意見に理論がある。どれも和解に対する主流の意見と見ていい。
「で、アンタはどう考えてるんだい?アストルティアを転々としてるんだろう?」
「…。」
突入部隊の数少ない僧侶枠、アヤタチバナと彼女の師であるテルキは、各地を転々とする衛生兵のような冒険者だった。
二人は元々ある国で、戦場の兵士達のメンタルケアなどを研究する王立研究院の技術局に属し、彼女は当時そこの主任だったテルキの部下でもあった。
傷病兵保護条約も魔物相手では関係ないゆえ、今は冒険者の身だが…人一倍、戦場の兵士という生き物を見てきた彼女の想いは、また違ったものだった。
「…戦争はさ、ダメって皆言うよね。皆だってプライベート・ライアン見て、殉職かっこいいとか思ったでしょ?かっこいい死を迎えたいって、思った事あるでしょ?」
「…。」
「けど…私も戦争を観る側ではなく、戦う側になって、初めて分かった。戦争は…厳しい。身近な人達の死をひたすら見続けるのは…辛いよ。技術の進歩とか、自分の正義とか、そんなの全然関係なしに、人は死ぬ。」
だから、そんな戦争を魔族との間で回避できる道があるのなら、和解という近道には全面的に賛成だった。自分の親しい人が目の前で死ぬ。それが戦場というものだと気付いた時から、彼女は戦場の兵士を本当の意味で癒したいと誓ったのだ。
無論、僧侶専門だからと言って全ての命を救えるとは限らない。
正確に言えば救えば救うほど、救えなかった時のもしもの恐怖が纏わりつく。もう少し技術が、時間が、力があれば、救えたかもしれない命を目の前で失うかもしれない…そんな悪夢に苛まれる。
「けどさ、それで救う事を諦めるほど、柔じゃないから。ボクの前から怪我人がいなくなるのは治った時だけ。絶対に死なせないからさ、安心して和解の為に戦ってきなよ。」
『平和と自由とはいつの世も、多くの者が血を流して勝ち取るものだ。それでこそ後世に生きる者が感謝をし、平和と自由が得難いものであると尊ぶ』。
いつだったか、何だったかの本で語られていた言葉だ。確かに人の世とは、そんな業に満ちているのだろう。
だからこそ、もう、その代価を払う必要は無い。誰かの血も涙も屍も、これからの平和には不要だ。少なくとも…自分の目の前の命には、要らない。
だからこそ、助けよう。誰かが死ぬのを見たくないから戦場を走るという、矛盾を抱えながら。必ず、全員生きて、ヴェリナード城に戻って来るとも。
君達はラーズグリーズの英雄になれるのかな。そんなことを少しだけ、期待してしまった。