アバ様「いいか、今日からお前はエレン・キラだ。」
見つめる私にアバ様は続ける。
アバ様「決して本当の名前は名乗るでないぞ。」
小さい頃アバ様にそう言われた。
私はエレン。
この日から私は 絵本の悪女と同じ名前になった。
悪運が強くなる為に。
数奇な運命になる私が、その未来へ打ち勝つ為に。
その悪女の少女の心さえ、制する様に、
キラ というミドルネームも貰った。
私、エレン・キラ。
朝、いつもメイドのユズちゃんが出してくれる
紅茶をすすりながら、何故か今
急に、それを思い出している。
ユズ「 _様」
あ、いけない呼ばれてる。
エレン「はい?」
ユズ「心配されているのですか?」
エレン「え?」
ユズ「大丈夫ですわ。貴女様は、
あくまでもエレン様なのですから。」
エレン「はい…。」
絵本の悪女の作家さんがアイリちゃんみたいなら、
私の存在、肯定してくれて安心ですよね。
ユズちゃんに最近そう言っていた。
その作家さんは、異常に悪女の少女を愛している
癖の強い人だったから。
ユズ「もしかして…お気にされているのですか?
…昨日の…あのザンクローネ様の事。」
エレン「うーん…。」
彼が全力を尽くした結果のそれの件も、
やっぱり理由なのかもしれない。
何もかも当たっている。
それにしても、ユズちゃんは本当に察しが良い。
エレン「何となく…
自分の村の事思い出してました。」
ユズ「エテーネの…ですか?」
エレン「…あんな人がまだ居てくれたら、
あの村の復興もって。」
ユズ「…天地雷鳴士のお呼び出しに、精霊ザンクローネ様 が、新たに生まれ出て来て下されば良いですわね。」
エレン「ええ?!」
ユズ「そうすればアンルシア様もきっと心強いですわ。…でもあのかたは、お呼び出さなくても
自らで常にお出になりそうですわね。」
エレン「確かに…その発想は無かったです。」
ユズちゃんの凄いアイディアに
思わず笑ってしまった。
そうだ、そのモヤモヤも有った。
意外と心が折れやすいアンちゃんに
きっと良い刺激なっただろう。
頼れるお兄ちゃんの相棒がいなくなるのは、惜しい。
ユズ「出してしまって下さいな。ザンクローネ様を。貴女様ならそれに限らず、きっと運命をひっくり返せますわ。」
私は、大事な物は全て幸運に恵まれて、
甦れば良いと思っていた。
運命の道理に逆らった少女。
それが私だった。