※割と事実に基づいた邪神の宮殿ネタです。
アストルティア歴2016年11月10日。
闘馬、暗流らは勇者を騙り邪神の地にて挙兵す。
これを受け、聖光教団は始韻を鎮圧の為派兵。
始韻は盧敏、音謬、皆茂らを招集し偽勇者一党の征伐に向かうのだった。
「して始韻殿、此度の戦何か策がおありか」
『あるといえばありますな。しかしまだ完全にはまとまっておりません。
これを策と言って良い程のものかどうか…』
「煮え切りませんな…ひとまずお聞かせ願えませぬか」
『では…まず我らは一獄の地を攻めます。
これは定石、間違いなく勝つでしょう。』
「一獄は攻めるに易し、守るに難し。
見た目にはそう見えますが…しかし兵の練度が足りませぬ。
彼の地へ攻め入る兵を募れば、
与し易しと必ず日銭を求めたならず者どもが混ざってきましょう。
過去の戦では、その穴を突かれて敗れた者も多いと聞きまするが?」
『そのために予め職構成を吟味しています。
また、兵の半数は我らの身内。
半数が信頼できる兵ならば、いかなる対応も出来ましょう。』
「なるほど、では次は二獄で?」
『いえ、三獄を攻めます』
「二獄ではないので?」
『一獄の勝利の勢いのまま盾兵に即座に切り替え、
一気呵成に三獄を攻め立てるのです。
三獄は長得物を使えない以外の地形的不利がなく、即座に戦闘が可能です。
また、三獄での補充兵は精強で有名。
これを加え一獄の勢いに任せて雪崩れ込めば間違いなく勝つでしょう』
「では次は?」
『悩みどころですが四獄です』
「理由などは」
『四獄は計略をもって攻め立てます。これには大した準備は必要ありません。
まじない師に扮して札を撒くだけですから。
これも多少の運によりますが勝つでしょう』
「運というのは?」
『天使の導きでしょうか』
「…は?」
『天使に祈るのですよ、審判を待つのです』
「…始韻殿は教団出身でしたな。
残念ながら我ら武人には慣れない言葉でありまして…」
『信じられませんか?』
「…は、決してそのようなことは」
『まあ、信じなくとも勝ちますよ。心配めされるな』
「はあ…では残る二獄ですが」
『これが難題です。消去法で残しましたが、
まず何回か敗走する覚悟で臨みませんと』
「は?二獄が、でありますか」
『闘馬と暗流が彼の地で封印の儀を行なったようで…
斧持ちの魔物兵、槍・弓の道具兵、弓持ちの賢人以外侵入ができません。
知っての通り、我が軍には斧持ちの魔物兵がおりません。
先だっての整備計画で皆両手剣に鞍替えしましたから。
兵を募っても恐らく数は揃わないでしょう。
我々は最大の火力を失ったまま、戦いに臨まなければなりません。』
「しかし、道具兵には倍気の術がありますし、
賢人殿たちも精神統一を行えば充分戦えるのでは」
『はっきり申し上げますが、困難と言わざるを得ません』
「それは何故」
『まず道具兵。これは良いでしょう。
最近は闇金党討伐の為に練度が高まっていますから、槍とて遅れは取りますまい。
しかし、問題は賢人達の方。
あれらは異端魔術師や僧侶崩れどもが自称しているものがほとんど。
職業賢人の数は揃いませぬ。あれでは戦力になるとはとてもとても…』
「いかに総大将殿と言えど、兵達に向かってそのような物言いは如何なものかと」
『私もまた僧侶崩れのそれだからこそ申しているのです』
「そうだとして、兵を信頼もせず、始韻殿は負けるおつもりで臨まれるのか?」
『…失言でした。しかし先の戦で私は賢人達の戦を見てきております。
彼らの多くは陣形すら整えず、精神統一をしては斬られ、
洗礼や癒雨すらまともに使わず一方的に嬲りものにされたのです。
それは仕方のないことです。
本来魔術師や僧侶は壁の後ろに位置し、役割が定まっているのです。
そこに両者を使い分けるように、かつ、不慣れな立ち位置を強いられては…』
「ではどうするおつもりか」
『我らとてその経験は無駄にはなっておりませぬ。
賢人としての役割は果たせましょう。戦いには機と言うものがあります。
それを待ちます』
「機、ですか。総大将殿、まさか東南の風を起こしてその弓で火矢を射るとでも?」
『残念ながら私は芸人でも魔術師でもありませんので、風や火は起こせませんな』
「ではその弓は…」
『道具兵らに頭を下げて「倍気」と言う気にもなれませんよ。
僧侶らしく回復に努めましょう。あとは洗礼などで補助を』
「では、そのように」
続く