[海底離宮]突入作戦に参加した面子が再び顔を合わせるのは別に珍しい事ではない。有能な冒険者は引く手あまただ。時に難題なクエスト依頼にて同業者と組むとなればその実績がモノを言うが道理だからだ
「わたし、これからゲリュオンさんをばっさりしに行くトコロなんですよ~」
人呼んで[おっとりばっさり剣士]。いつも仏のように穏やかな表情で、しかしその剣戟は岩さえ斬り裂くという苛烈な面も持ち合わせる少女、ルクレツィア
「討伐か?丁度良い道連れが出来たぜ」
人呼んで[爆弾工作員]。戦闘工兵として高いスキルを持つ。破壊工作において特に[爆弾]というものに高い執着を見せる危険な面もある男、マージン
「確証も何も無いのに本当に探す気か」
人呼んで[諜報員]。冷静沈着を擬人化した様な人物。音も無く近付き常に効果的な一手を突くその手際はまさに魔術士と言うべき男、フツキ
「タチバナ君はどうするんだ?」
「ボクには先約が有る。ヴェリナードへ」
街の名を出された面々は感慨めいた表情をした。
あの作戦の出発点である、あの街を想って。名誉の為、褒賞金の為、或いは冒険者としての矜持の為に。かの地へ赴き、クエストを受注し、轡を並べて海底へ突入しなかったらボク達は恐らく出会うことも無かったであろう関係だったわけだから
「僧侶がいてくれりゃ大分楽だったんだが仕方ない。ところで用事って、仕事かい?」
そんなところ、と曖昧な返事を返す。実際現地へ行かねば依頼の内容が判らない。今までは無かったケースなのだが
「アテンションプリーズ。お客様、昼食のご用意が調いましたので食堂車へご案内申し上げます」
(ゴヒャンッ!早よっ早よ行けズラよ急げぃ)
「イキナリ騒ぐなっ...あっ」
「ふぇ?タチバナ...さん?」
何でもない昼食に向かおう、と面々を促す。だがその方向から悲鳴が突然あがった。戦士の性か、咄嗟に身構える即席のパーティ。食堂車に繋がる車輌連結部扉の小窓はパニックを起こした乗客の頭で遮られ見えない。しかし今度は頭上、つまり車輌の屋根に何か落ちて来たような音が響いてきた
「何だ。こんな海のど真ん中で落石はないよな」
「海も穏やかだ。波に打たれたんではないし」
ならばおそらく...その解答は、連結部の出入口の乗客を威嚇し掻き分け闖入して来たドラゴンライダーだった
「よ~う諸君、雲一つない蒼天。絶好の強盗日和だぜい。お前らが身に付けてる中で一番金になるブツ、さっさと寄越しな」
さしずめ、空賊といったところか。日に焼けた浅黒い肌が筋骨隆々を更に際立たせ、実際より白く見える歯を見せびらかし吠え散らす。それが戦う術を持たない人々を過度に威圧する。ライダーの相方である飛竜の頭が外から窓を突き破った。降り注ぐガラスのつぶてと中を覗き込んでくる怪物の雄叫びが乗客の理性をすら叩き割る
「金目のモンが、親や恋人の形見だってんなら最初に申し出てくれ」
下品な高笑いが響く
「今すぐソイツに引き合わせてヤるからよ」
高架の死角に潜伏して一気に箱舟を襲撃したバンディッツ(ならず者)は一体何人いるのか。他の車輌にも入り込んだに違いない。後ろの車輌からも悲鳴が聴こえる。一方此方は武器を乗車前に預けていた。タイタス号襲撃の件で公共機関は何処もデリケートになっており特に力有る冒険者は優先警戒対象だ。今は最後尾貨物車に有るだろうが、そう簡単に取りに行かせてはくれないだろう
(どうすんの?戦うならアタシの力使うしかないんじゃない)
「待って。下手に動いたら人質が危ない」
飛竜はボク達を含めた乗客達を見張っており、指示されれば躊躇なく車内に火を吹き込むだろう
「ならトカゲの口を塞ぎゃどうだ?」
マージンが懐から何かを取り出そうとする。フツキの手がソレを抑えようとする、が
「心配すんな。オレ様程のプロとなりゃ爆弾たって派手にブッ散らすだけが能じゃねェのさ」
爆破解体のプロは、たった今面白いイタズラを思いついた悪ガキのような顔を見せた