「このっバカっアホっドジっブスっマヌケっトンマっバカっヨクバリっクイシンボっバンザイっ」
ガンッとかゴンッとか凄まじい打撃音の連打がレールの音よりも強く車輌に居る者達の鼓膜を叩く。乗客達は、自分達側である筈のアヤの行動に完全に凍り付いてしまっていた。いつの間にか上体を起こしていたトカゲの仲間もソレを見て誰も助けようとしなかった程である
(アヤ....ねぇ....)
「許さなヌェェどトカゲェェェ!!」
(アヤ!!およし!!)
「はぃい~っ」
見かねたボクが怒鳴るとアヤは打撃を止めた。代わりに顔面がボコボコになったトカゲの啜り泣きが聴こえてくる。何だか酷く哀れに思えてきた。さっきまで美味しい料理に舌鼓を打って幸福に満ちていたであろうに、気が付けば最悪の食いしん坊の怒りを買い地獄を見るとは
(...逃してあげな)
他のトカゲ達は仲間を見捨て我先と下車してしまっていた。薄情な...アヤは無言でまた乱暴にツノを掴み外への扉前までトカゲを引き摺り、立たせた。ボコボコ顔のリザードマンの後ろを流れる背景は抜けるような青空と陽気に照らされ輝く海。シュールだ。まだ怒ってるのかアヤは相手に背を向けさせ、その背中を線路に蹴落とした。此処からではオーグリードまでは丸一日歩き続けなければ辿り着けないだろう。彼らの生きる為の試練は過酷なものとなるに違いない。強く生きろよ。アヤといえばまだ諦めが付かないのか再びショーケースの前に戻ってきてしまった。そして喪った戦友の名でも読み上げるかのように
「嗚呼...パワーアップルパイ、レアドロップチーズケーキ、キングオブモンブラン、おおきづちブラウニーチョコ.....みんな逝ってしもうた」
(そんな大袈裟な)
「...それと桃尻春ベリーケーキ」
(ちょっと何だいそのふざけたネーミングは)
「あ“あ”あ“~....」
今度はアヤが盛大な音を立ててガラス棚に頭から倒れ込んだ。ちょっと、胸ポケットに入れたボクのメガネが割れるじゃないか!大丈夫かと周囲はどよめくが、当人はケースの向こうで小さく震えるドワーフとプクリポの料理人2人を凝視していた。当然見つめられた側はヒッと短い悲鳴を出すが、アヤの興味はプクリポが握っている生クリームの絞り袋にあった
「ネェ....プクチャン....チョーダイ...ソレ」
「あっ....えっ....とコレ...ひっ」
「ヨゴゼェェェェ!!」
泣き顔になったプクリポは慌てて絞り袋の口金をアヤに咥えさせる。ヂュッという音と共に中身が一瞬で全て吸い出された。カロリーを摂取したアヤの喜びの感覚が一瞬だけ伝わった
「よしゃ~....ちっっっっっとだけ元気になった」
ガラガラとガラスの残骸から起き上がったアヤに一切の怪我が無かった事に周囲は驚いた。彼女の身体は特殊なのだ。ボク的には宇宙人の線を疑っているが、いつも笑って誤魔化されるのでハッキリした正体は分からない。まぁ今はその頑丈さを素直に利用すべきだ。燃費は最悪だけど
(さぁ、前方の車輌へ進もう。まだ敵が残ってるだろうし)
「うんうん。アヤチャンにまかせ」
「おーい!タチバナ無事かーてっナンジャこりゃー!?」
ビクッとアヤが跳ね上がった。ボクも実際そんな心地だった。あの3人が思ったより早く後部のトラブルを解決して取って返し、いよいよもって前進して来たわけだ。流石仕事が早い。ボクの刀まで持って来てくれたは良いが...
「およ?どちらさまでしょう。見覚えがあるお召し物をされてますよね」
「というか、タチバナ君と同じ服装だな」
怪訝な顔で3人が近づいてくる。特にフツキは不審そうにアヤを見入る
「なぁアンタ」
「あたし?えっ...アタシ、アヤチャン」
引きつった顔で、変なイントネーションの受け応えをする人間の女性。荒れた室内でガラスまみれ。オマケに先程別行動を強行した仲間と全く同じ服装となれば怪しさ満点といった所だろう
「...こっちの方にアンタと同じ服着た子が来なかったかい」
お前ココで暴れたのか?とは聞かず、とりあえず姿が見えないタチバナの事を尋ねるマージン
「えぇっ!?...いんやえぃ知りませぬん!」
ウソが下手だなアヤ
「君の服装だが」
「コレェっ!?...うっウチの学校指定の制服ですんんん!!」
「そんなお尻強調されちゃう制服なんて逆に校則違反になりませんでしょうか?」
「いんやもしかして強調しなけりゃ違反なのかも知れん。そうか!だからタチバナっていっつも悩ましい桃尻をフリフリ」
「オイ、話脱線してるぞ。俺が言いたいのは」