綿花職人の朝は早い。
今、話題の職人の1日に密着した。
彼の1日は、村中に焼き立てのパンの香りが広がるメルサンディの村から始まる。
日の出と共に鳴り響く笛の音と共に、彼は今日もメルサンディの平和を祈ってから、側に落ちている妖精たちが紡いだ綿花を拾うのだ。
それからグランゼドーラへ移動して、ロヴォス高地でエリミネーター氏と挨拶を交わす。
ゼドラ洞に入り、綿花を1ついただいて帰る。彼が言うには、昔はここで魔物からグランゼドーラの平和を守る戦士に、毎朝パンを届けたこともあったそうだ。
しかし平和になった今、無人のテントが置かれているだけである。
再び飛び立ち、洞窟の向こう側へ。
ここで彼はゴーグルを身に着ける。
どうやらここでは、これを着けていない職人は半人前だそうだ。
一人前の綿花職人かどうか、彼はここでゴーグルを見ればわかりますよと、得体の知れない緑のモンスターに襲われている職人を横目に言っていた。
洞窟を出た後、崖を飛び降り綿花を採取。
彼曰く、最初は飛び降りるなんてことはできなかったが、毎日走っているうちに強靭な足腰が鍛えられ、飛び降りることができるようになったという。
そんな彼の太ももはパンパンだ。
再び飛び立ち、進路を西へ。
連絡橋のすぐ側に降りた彼は、流れるように3つの綿花を拾っていく。
崖を飛び降り、また駆け上がる。綿花職人は体力がすべてだ。
次で最後です。
そう言って彼は更に西へと飛ぶ。
降りたところには妖精の綿花。
寸分違わず着地する、彼と相棒の息の合った名人芸だ。
感心して見ていると、ここで待っていてくださいと言ったまま、彼は不思議な光と共に消えてしまった。
2分後、戻ってきた彼の手には綿花。どこで手に入れたんですかと聞いてみても、企業秘密だと教えてくれなかった。
そうして彼の1日は終わる。
この日採取した妖精の綿花は9個。
1個1800Gで売れるらしい。実働時間は10分。
時給にすると97200Gだ。
十分な稼ぎですねと話しかけてみると、彼は残念そうに顔を横に振る。
昔はよかったんですよ。
綿花職人になる前はレンドア一の道具職人として、時給100万Gは稼げていました。
もうバブルでしたよ、作る前に売り切れるんだから。
遠い目をしながらそう言う彼に、では今の状態はきついですねと問いかけると、
でもね、こうして初心に帰って素材を拾う。
道具職人になろうと決めた、貧乏だった頃の熱い気持ちを思い出しましたよ。
そう言って彼は笑った。
いつか道具職人として復帰するときが来るかもしれない。
だが今は、平和な村でパンと珈琲と紙芝居に囲まれながら、綿花を拾い続けることに楽しみを見出しているようだった。
※この物語はフィクションです