夕暮れ時、大したことをしてくれない神に懺悔や祈りを捧げる(酔狂な)信者達の列がなくなると、いつもの日課をこなす。
(カキン、シュボ)
ふぅ~
形見のジッポを窓のヘリにおく。
これは、意外と火をつけるのが難しく、一発で着けることのできることは俺の密かな自慢だ。
さしこんでくる夕焼けを眺めながら、教会の屋根裏で専売商品のチェックをする。これも俺の大事な仕事だ。
その時には、悩ましいことをを忘れることにしている。
商品は悪くない。燻らせる味も悪くない。だが・・・
チッ!
舌打ちを禁じ得ず、部屋の中央に向き直る。背中に心地よい暖かな光を感じながら、くそったれな視線をソコに向ける。
普通のルーラとは違う、空間転移。
どちらかと言えば、魔族やモンスターが良く使う冒険者には使えない魔法。
王族直属の特殊部隊が奇襲に良く使う、音も光もほとんどでないヤツだ。
その転移している点が生まれる。
ソコから聞こえるのは、
「神父様が、夕焼けを愛でながら燻らせるご趣味があるとは意外ですが、様になっているのはさすがです。」
聞き覚えのあるハリのある女性の声だ
最近の執事は、そんな邪法も使うのかい?
「執事のたしなみですわ。警戒しないでくださいませ」
微笑みかけるそれは、見る者に慈愛を与えるものだ。
シスターの正装でもさせれば、さぞや多くの儲を獲得できるだろう。
で、ご用件は?
シスターへの転職希望なら歓迎するぜ?
「いえいえ、我が主の言い付けを守っているだけですわ」
言いつけだと?あの毛玉か
「ええ、お宅のお嬢様を見張れとのことですので」
たぶん、見守れじゃねーかなそれは。
「娘さんってところは否定しないんですのね」
てめえ・・・
それに、最近レンダーシアに行くようになって、仲間と歩いてるらしいからな
ここ数日はみてねーぞ?
「あ、その事でしたら契約が切れて居るらしいですわ。」
でも、かくにつったか、あれも連れて歩いてたろ?
ザオリク使えるから、やっぱり来ねーんじゃねーかな
「ええ、ですが。本日受けられた日替わりはイエローバングル。お嬢様がお一人で対処できる相手ではございませんわ」
それなら教えてやりゃぁ良いじゃねぇか。
「私は執事でございます。冒険者の皆様方に直接お手伝いすることも、御助言する事も許されておりません。その意味では、あなた様と同じ立場ですわ。」
チッ!
再びの舌打ちを堪えることができず、ついでにもう一本試すことにする。
「失礼します」
女性執事がめざとく窓に置いてあったジッポを手に取り、石に手をかける
待て、という言葉より早く
(カキン、ボシュ)
「執事のたしなみですわ。」
おそらく、驚いた間抜け面をさらしていたのだろうが
察して笑顔を絶やさ無い。
一息燻らせると、慈愛の笑顔で言葉を紡ぐ。
「お嬢様が来られたようですよ。」
差し向けられた携帯灰皿に未練なくつっこむと、俺は外に駆け出した。
阿呆が、まだ己の実力もわからねぇのか!
「えーん、
今日の売り上げ持ったままなんだよー
具体的には6024ゴールド」
ふん、ペットを殺されて戻りって来るようなヤツには良い勉強代だ!
「えーん、かくにもよみがえらせてよー」
220ゴールドな
「え!まだお金とるの!?鬼、悪魔、守銭奴!」
神への悪口はその辺にしとけ。
まったく、死んで戻って来るたびに悔しそうな顔を晒しやがって・・・
知らねーとでもおもってんのか。
部屋の隅に顔を向けると、あの執事がぺこりと頭を下げて帰って行く。
おいおい、建物の中だぞここ。
ヤツのルーラは、天井に頭をぶつけることなく、姿を消した。
まったく・・・
「ねぇ、早くかくにをおねがいー!」
あー、わかったから落ち着け。
もう、死んで戻ってくんじゃねーぞ。
その言葉を飲み込む。
コイツが、行ったらもう一本やるかね。
窓辺に置いてあるジッポが、夕焼けの最後の光を反射させる。