いつもと変わらない朝が来て、いつもと変わらない太陽が、いつもと変わらない光をこの時間、このみすぼらしい墓場に朝日という慈悲を与えてくれる。
このいつもと変わらない日常は、俺たち人類にとっては1年の切り替わりという節目を祝う時期でもある。
ルビスやマスタードラゴンなど様々な神々がいるが、どいつもこいつもろくな手助けをしてくれない。なのに信者たちは一心不乱に祈りを捧げ、そしてこの日を迎えられたことを感謝している。酔狂な彼らに相手は、この時期だけ雇っている臨時のシスター役の娘たちに任せ、一年に一回やると決めたことに手をつける。
一年に一回と言っても、今年で10回目を迎える。
『アタシ、それ嫌いだから~』
フラッシュバックする過去の記憶が、かつて自分を父親と呼んだ奴が眠っている場所を掃除する手を止める。
この後、なんて言ってたか・・・
数本くすねておいた教会の専売品をポケットから取りだす。
(カキン、シュボ)
手が震えていても一発で火がつく。
ガキっぽい自己満足に浸りながら、背中に向かって声をかける。
ここは神父や関係者のみ入っても良い場所なんですがねぇ。
「申し訳ございません。用が済めば退散いたしますわ」
ったく、冒険者でさえ退ける大司教クラスの結界魔法をなんだと思ってやがる。
ぼやきつつ振り向くと、見知った顔のメイド服の少女は言葉ではなく神聖可憐な微笑を浮かべて返す。
そして、俺が掃除していた墓の前に入れ替わりに膝まずく。
「わたくしも祈りを捧げてもよろしいですか?」
ここは墓碑銘も刻まれない無縁墓だ。誰が祈ろうが勝手だ。
祈りのしぐさと沈黙が流れる。
ゾーマとかシドーに祈ってねーだろうな
「まさか、そのような下級神になどいのりませんわ」
そうかよ。
「すみません、冗談が過ぎましたね」
いや、聖書や祈りの言葉なんて悪魔でも使うさ、都合の良いところを引用するのは神や神父と同じさ。
「そうですか」
少し儚げに寂しい笑みを浮かべる姿は、傾国級だな。
で?ご用件を伺おうか。
「お嬢様が料理を始めたのはご存知ですか?」
ドワーフ娘の顔が思い浮かぶ。いや、初耳だな。
「そうですか、料理を覚えて初めて星3つのものが出来たので、振る舞いたいと」
は?そんなもん売れよ。
「いえ、もう包丁を入れて、こちらの教会に持ってきております。」
はぁぁぁ?ったく
ばか野郎!料理スキルをあげるのにすっげぇ金かかるだろうが!もったいねぇ。
「あの、ぼくの分もあるよね?」
「勇者姫様にしたしうちを覚えていますか?」
「ごしゅじんさま、ぼくのはコレ?」
「コレ、ワイのやんな!」
「あ、取り分けてますから落ち着いてください。」
「それがしもいただくかな」
け、うるせぇったらありゃしねぇ。(カキン、シュボ)
「アタシ、それ嫌いだから。」
あん?
「でも、そのジッポ?って言うの、その臭いは好き」