シロとサキは抱き合った。互いに手をふり、二人の距離は遠退いた。
サキは離れるシロの背中を見つめていた。
シロを見つめる魚や小動物。なりやまないニュース。宙を舞う鳥。皆で帰る子供たち。空から落ちる物質。すべてを置いて、シロは歩いていった。
床に落ちている花束を見つめるサキ。悲しくなって最愛の者、そして現実から目を背けた。絶対帰るという彼の言葉。信じることは容易くないが、信じるしかない。しかしきっともう帰ってこない。
連絡手段を図ろうものにも、手紙程度。書こうものにも、語彙滅裂。言葉にしたくないだけなのかもしれない。言葉にすれば、いつか来る終わりを、早く迎えてしまう気がしたから。
子供たちが街から消えていく。物体が街から消えていく。活気が街から消えていく。花束をアスファルトに静寂とともに落としたサキ。自身の不甲斐なさに泣きたくても泣けないシロ。
街が灰に包まれていく。シロは最愛の街と妻を置いて、消えていった。
サキもまた、最愛の街を置いて、旅路を出た。
どんなときも共にいた二人。手をふって、二人は離れた。