夕日が沈み、空が暗くなっていく中、リウは目を覚ました。そして、立ち上が…ることはできないので、体を起こして景色を見つめた。
[今年も綺麗だなあ…。]
この綺麗な雪景色を見ることが、彼女の毎年の楽しみだった。そして、今日は特別な日なのだ。積もり行く雪が造り出す、普段とは一味違った幻想的な町並みに、リウはとても感動を覚えていた。しかし、今年のリウには、もう一つ楽しみがあった。彼女は、“彼”の来訪を心待ちにしていた。
[来てくれるかなあ…。]
“彼”が必ず来るなんていう保証はない。しかし、きっと来るはず。彼女はそう信じてやまなかった。そして、すぐさま時は来た。
「リウ、いるか!」
[わあ…!]
その声がきこえた瞬間、リウはときめいた。そして、すぐさま自分が書いたボードを持った。
「よお、リウ。」
ルマは笑って、リウに挨拶した。リウは微笑んで、ボードを見せた。
『ルマくん、☆メリークリスマス☆』
美しい文字と星模様、そして普段の紙ではないものに書いたこの特別なボードは、ルマを喜ばさせた。そう、今日はクリスマスなのだ。正確には、クリスマスイブである。
「はは、すげえ綺麗なボードじゃん。ありがとうな。」
その言葉をきいて、リウはとても嬉しそうだった。
「そうだ、これ書いてみろよ。」
ルマは、リウに大きな紙を渡した。リウは、不思議そうに紙を見つめている。
「それはな、クリスマスの願い事を書く紙だ。書いてみろよ。」
リウは少し嬉しそうにルマを見つめ、文字を書き始めた。リウの一心不乱に書く姿を、ルマは暖かい目で見守っていた。そして、リウは書き終えたと同時に、ルマに見せた。
『ルマくんに幸せになってほしい。
まあでも私も歩けるようになりたい。
君みたいにね。
とか書いてみたけどどうだろう。
いつものことでありきたり
って思われていないかな?
ショックだな、そう思われてたら。
よく思うの、歩けるようになりたい。
二つ目は、喋れるようになりたい。
いつものことだけど、
たいしたことじゃないかもだけど
いまの私の願いだよ。』
ルマは、その文字数の多さに驚いた。そして、その書いていることを見て、微笑んだ。
「いつか、歩けるようになれたらいいな。話せるようになったらいいな。か。クリスマスなんだから、きっとその願いは叶うよ。心配すんな。」
リウは嬉しそうに、だけど少し悲しそうに微笑んでルマを見つめた。
「そうだ、今日、こんなの買ってきたんだ。」
そういうと、ルマはプレゼントボックスを用意した。リウは、興味津々にそれを見ている。ルマはプレゼントボックスを、近くにあった机に置いた。
「これ、なんだと思う?」
ルマはリウに尋ねた。リウは、首を傾げた。しかし、クリームと果実の匂いがボックスから漂い、リウははっとなった。そして、いつもの紙に急いで文字を書き始めた。
「はは、そんなに急いで書かなくても、ちゃんと待つよ。」
リウは書きながら、苦笑いした。そして、書き終えた紙をルマに見せた。
『もしかして、何かのケーキかな。』
「お、正解。」
ルマはリウの嬉しそうな顔を片方の目で見ながら、ボックスをあけた。その中からは、苺のショートケーキが出てきた。リウは、とても驚いた表情をした。
「結構高かったんだぜ、これ。」
リウは、興味津々にケーキを見ている。ルマは自慢のプレート2枚と、フォーク2匙、そしてナイフを用意した。そして、ルマはケーキをカットし始めた。カットショーを、リウはとても嬉しそうに見ていた。そして、8分の1のサイズのケーキをプレートに乗せ、フォークをつけてリウに渡した。同様に、自分の分も用意した。
「食おうぜ。」
ルマは、フォークでケーキを適量に切り、食した。リウも真似するように切り、ケーキを口にいれた。
[お、美味しい…!]
リウの表情を見て、ルマは安堵した。
「よかった、旨いみたいだな。なんでも、今日親にきいたんだけど、それ旨いらしくてさ。だから、お前と食えたらいいかなって思って。」
リウとルマは、その後も、ケーキを二人で楽しんだ。
「そうだ、見てみろよ。」
リウはルマの発言に反射し、窓の方を見つめた。街の中央に、大きくて彩り鮮やかなクリスマスツリーが立っていた。リウは、ただただ感動した。
「最高だな、今日という日は。」
ルマはリウにそう呟いた。リウは、満面の笑みで頷いた。そして、一方的にルマの手を両手で掴んだ。ルマも乗って、二人は一緒に、夜遅くまで最高の冬景色を楽しんだのだった。
続く