「さて、とりあえずどうしようか…。」
足の治療といっても、ルマはいまいちピンとこなかった。マッサージやら自立を試みるやら、方法は幾多(いくた)であろう。
「とりあえず、マッサージでもしてみるか?」
ルマの独り言か質問か分からない発言に、リウは軽く頷(うなず)いた。
「悪いが、足出してくれる?」
リウはそれをきいて、毛布を上半身の方に引っ張った。ルマは、リウの足をほぐし始めた。リウは、足を触られても、反応がない。無理もないか。
「うーん、感覚ある?」
リウは、首を横にふった。もとい、感覚があれば、こんな病に悩まされることもないかもしれないが。ルマは、引き続きマッサージを続行した。しかし、リウに変化はない。
『大丈夫?つかれない?』
リウは、さっと紙をルマに見せた。ルマは軽く微笑み、マッサージを続行した。リウは、紙をシェルフの引き出しに戻した。ルマは、何故か非常に長い時間、マッサージをしているように感じた。現実時計と、ルマの体内時計は相当狂いが生じているようだ。
「けっこう果てしないな…。ほんとに治んのか…?」
ルマは、少しずつ疲れがたまってきたのか、少しずつマッサージがぎこちなくなってきた。リウは、急いで文字を書きたし、ルマに広げた。
『ルマ、休けいしようよ。とてもしんどそうだよ?』
ルマは、その文字を見た途端、ぞっと脱力した。リウは、小さな小包を持ってルマの方に手をのばした。
「な、なんだこれ…?」
リンゴ味のキャンディだった。
『びょういんの受付にあったから、この前出かけた時にとってきたんだ。ルマにあげようとおもったの。』
「リウ…。」
ルマは、小包を手にとった。そして、すぐに開封して、口にいれた。とても優しい味がした。
「おいしい。」
リウは、嬉しそうに微笑んだ。ルマは、しばらくキャンディをなめていた。まるで、はじめて食べたかのように、ルマは美味しそうに食べていた。しばらくして、ルマはキャンディの残骸(ざんがい)を飲み込んだ。
「ありがとう、リウ。」
リウは、再び嬉しそうに微笑んだ。ルマは、何故か体力が一気に戻った感覚を感じた。すぐに、ルマはマッサージの体制を整えた。そして、ほぐしだした。
「絶対、リウの足を治すんだ…。」
ルマは、そう、とても、小さく、でも、リウに、きこえるように、呟いた。その言葉をきいて、リウは、あえて笑顔を作らなかった。真意は不明瞭。しかし、ルマも、なんとなく察したような表情をつくった。それ以上、ルマの口から言葉はでなかった。
「…。」
ルマは、集中してマッサージを続けた。力加減を変えたり、いろいろ試行錯誤を繰り返した。
「そういや、リウって誕生日とかいつなんだ?」
リウは、その言葉をきいて、紙に文字を書きたした。
『2月27日』
「へえ、けっこう遅いんだな。リウって名前も、考えてみたら不思議だよな。どういう由来なんだろう。」
その発言に、リウは困り顔で首を傾げた。
「まあ、知ってるわけないか。おれも、自分の名前ルマだけど、意味はよくわかんねえし。」
リウは、それをきいて苦笑いした。そして、紙に文字を書きたしてルマに見せた。
『でも、リウもルマも、きっとおかあさんが考えに考えてつけてくれた、ステキな名前だと思うな。』
「…そうだな。」
ルマは、何故か笑えなかった。同時に、ある考えが頭を過(よぎ)ったからだ。しかし、ルマはそのある考えを深く追及することはしなかった。そのある考えの場合、リウだってそうしているはずだ。
「…。」
そんな雑談をしながら、ルマは長時間マッサージを続けた。
「…!」
突如の出来事だった。
「い、今…。」
ルマは驚いたように呟いた。リウも、驚きとまどっている。ほんの僅かであるが、本当に少しであるが、動いた。
「…動いた?」
ルマは、妙に小声で尋ねた。リウは、非常に驚いた顔をつくっていた。そして我に帰った時、僅かに頷いた。
「やった、少し動いた…。」
ようやく動いたのだ。リウの足が、ほんの僅かであるが動いたのだ。触れられている感覚を感じ、反射的に動いたのだろう。なんにせよ、ルマは一縷(いちる)の希望を見いだすことができた。
「このままいけば、完治するかも。いけるぞ!」
ルマの、これまでにないほどの元気な声に、リウもとても勇気づけられた。
to be continued