早朝から、リウは病室のベッドに座りながら、日記を綴っていた。無論、昨日、ルマと一緒に、花畑で遊んだ最高の日の出来事だ。
[あはは、こんな気持ちで書くのはじめてかも…。]
リウは、心の中で笑っていた。書く度に、なんだか気持ちが楽しくなってくるのだ。きっと、余程楽しかった。とても良い思い出として、彼女の記憶にファイルされているのだろう。
[…思えば、ルマが来てくれなかったら、こんなにいろんなこともできなかったし、歩けるようにもなっていなかったんだよね。]
ふと、リウは思いたった。そう考えると、ルマは一番の友達であるものの、なんだか自分と対等であっていいのか、なんて疑問が過りそうである。
[…いや、ルマはあくまで友達。そんなに緊張して接すると、むしろあっちに悪いよね…。]
この自問自答の真意は何か。知る術もないし、解法や論法などもない。あったとしても、その答は数学のような形式とはまた違うのだ。
[まあ、そんなこと考えても仕方ないか。]
リウは、それ以上考えるをやめた。そして、途端に眠たくなってきた。
[どうしよう、朝早いし、もう一回寝ようかな…。]
リウは今一度ベッドに横たわった。明るくて、虚ろさがなくなった瞳が閉じていく。欠伸(あくび)もで始めた。毛布を体に覆い、リウは目を閉じていった。
[おやすみなさい…。]
「ピーポーピーポーピーポーピーポー!」
[…!]
リウは、突然目を覚まさせられた。外から何やら騒音がきこえる。騒々しさから、リウは謎の恐怖感を覚えた。そして、ベッドから身をのりだし、窓を覗いた。そこには、信じられない光景が広がっていた。
[え…。え…。え………。]
リウは唖然としていた。救急車一台、車一台、そして、一人の倒れている男が一名。このシチュエーションから、なんらかの交通事故だとリウは睨んだ。いや、そこにリウは焦点を置いていなかった。問題は、その倒れている人だった。
[…。]
青髪をベースとした、黒髪も混じった独特な髪の毛。これだけでも嫌な予感しかしなかった。さらにその人の近くには、マリーゴールドが落ちていた。
[…嘘だよね。]
間違いなく、ルマだった。リウは、なんども幻想だと、あるいは夢だと信じこもうとした。しかし、視力が悪いわけでもないし、頬をつねっても痛みは感じる。リウは、背筋が凍る感覚に襲われた。
[あ…。]
ルマが、救急車に乗せられた。そして、救急車が走りだした。リウの方、則ち病院の方へと走っていく。リウは、なんだかとても怖くなった。
[ルマ…。]
ルマが、もし死んじゃったら。考えたくないが、可能性としては全然否定できない。リウは、ベッドに踞(うずくま)った。そして、頭を抱えた。自分が悪かったのかと、どうにかできなかったのかと。皮肉にも、今回はリウが悪くないとも言い切れないのである。
[これで、もしルマが…。]
リウは思考を停止させた。罪悪感に追われたくないし、襲われたくもないのだろう。なにより、考えたくなかったのだ。自分の身に危険は一切ないのに、心臓が強く鼓動し続けていた。
[…私が悪いのかな。]
本心で思っているかどうかは不明瞭。しかし、一つ事象がある。マリーゴールドの花言葉。それは、
「絶望」
to be continued