「前!もっと前!」
「う、うん…。」
どういうわけか、リウは目隠しをさせられている。ルマは目隠しをとろうとはせず、リウに前だの後ろだの方向を指示するばかり。その上、何故かリウは木の棒を持たされている。いったい何故か。
「あ、もうちょい右!」
「え、そこにスイカあるの…?」
そう、二人はスイカ割りをしていた。リウが、スイカを割ろうと試みている。リウのあたふたした姿は、張本人のルマも和むものだった。
「よし、そこだ!」
「え、う、うん!」
ルマに言われるがままに、リウは木の棒を降り下ろした。
「ゴンッ!」
木の棒は、スイカに直撃した。しかし、スイカは割れない。
「あ、あれ…。力が足りないのかな…。」
たとえ当たっても、リウはまだ9歳の少女。スイカを割るのは、力量的都合で少し厳しいのだろう。
「まあ、当たったならいいだろ。」
そういい、ルマはリウの目隠しを外した。そして、リウから木の棒を取った。
「よし、いくぞ。」
ルマはそういうと、力をこめて、思い切り木の棒をスイカに降り下ろした。
「ゴンッ!」
「…ってええ!」
それでもスイカは割れず、反動でルマはダメージを負ってしまった。そんなルマを見て、リウは苦笑いしている。
「な、何笑ってんだ!」
「わ、笑って…ふふ…ない…あはは…あははは!」
リウは笑いを堪えようとしているが、我慢できずに爆笑している。ここまで本心から笑っているリウは、ルマでも見たことがない。ルマは、徐々に感情が変わった。けれど、やはり恥ずかしさは否めない。
「わ、笑うな…!」
怒りに身を任せ、ルマは木の棒を降り下ろした。
「パカンッ!」
と同時に、その木の棒がスイカに直撃し、スイカは砕け散った。リウもルマも、その光景に驚いた。
「わ、割れたね…。」
「わ、割れたな…。」
とりあえず、ルマはスイカを回収した。そして、いくつかをリウに渡した。
「ほら、食おうぜ。」
リウは、スイカを不思議そうに見ている。ルマは、口をあけてスイカにがっついている。リウも真似して、丸かじりした。
「…!」
スイカの瑞々しさが、リウの口内を透き通った。けれど、どうやら美味しいとは思っていないような様子だ。
「どう?リウ。」
ルマは、リウに感想を求めた。
「うーん、あんまり美味しくないかも。ごめんね、用意してくれたのに。」
ルマは苦笑いした。
「なに、気にすんなって。人なんだから、食べ物に好みはあるのは当然だよ。」
その言葉をきいて、リウは安心した顔を作った。
「それにしても、綺麗な海だなあ…。」
リウは、スイカを食べながら言う。
「な、いい景色だほんと。」
ルマも、スイカを食べながら言う。
「けっこう疲れたな。こうもずっと遊んでると。」
ルマが、ほっとため息をつき、脱力して砂浜に溶け込んだ。
「そろそろ帰る?」
リウが、心配半分でルマに声をかけた。
「そうだな、けっこう遊んだし、そろそろ帰るとするか。」
ルマはそういうと、一人で立ちあがった。そして、持っている荷物をまとめた。
「着替えてこよう、リウ。」
「うん。」
そうして二人は、更衣場へと向かった。入る前に、タオルで体に付着しているわずかな水を拭い取った。そして、二人はほどなくして更衣を終了させた。
「楽しかったね。」
リウが、ルマのみに呟いた。その発言に、ルマは笑って頷いた。
「また、行こうぜ。」
「…うん!約束だよ!」
リウとルマは、二人で無言で、だけど笑顔で指切りげんまんをした。そして、海を背に、家へと向かうのであった。
終わり