リウは、校内を捜索していた。地図を便りに、とりあえず歩き回っていた。
「うーん、やっぱり怖いなぁ…。」
リウは、まだ9歳の少女。大人でさえ、こんな場所は気味悪く感じるであろう。怖いもの知らずというか、芯が強いというか…。ある意味、強い。おそらく、これが最適表現であろう、ある意味。
「まず、どこを探索しにいこう…。」
リウは、地図を見て、手掛かりが入手出来そうで、安全そうな部屋を探した。七不思議が出る部屋以外は安全そうだが、この学校のことだ。七不思議以外の異質が現れる可能性だって、何も否定できない。最終的に、リウが選んだのは、3年2組だった。理科室や、音楽室のように、なにか特定の科目の教室より、普通の教室の方が、危険なことは少ないと思ったのかもしれない。
「よし、いってみよう。」
リウは、3年2組の方へと歩き始めた。妙に静かなのが、強調される。リウの安らぎが、側にいない所以であろう。話すことも、今は叶わない。少し、後悔しているようだ。
「…ね、ねえ、ルマ。」
と言っても、意味がない。リウは、虚無感に晒された。
「やっぱり、一人で行くべきじゃないのかも…。」
なんて一瞬思ったが、それでも、少しでも情報を入手するため、リウは戻らなかった。3年2組の前につき、鍵の束を手探りでひたすら刺していった。この時間が、やたらとリウの不安を煽る。リウは、一つ鍵を刺す度、あたりを見回していた。
「よし、探してみよう。」
3年1組のように、構造は、机と椅子が大半で占められている。あのナイフを持った青年が襲ってくることはないだろうが、それでもリウは怖かった。窓色が漆黒なのが、余計に不安を煽る。けれど、リウは勇気を出し、探索を開始した。机の中を、あらかた探してみた。そして、とあるものを見つけた。
「あれ、これって…。ノート?」
一つの机の中から、赤色が基調となっているノートが見つかった。リウは、興味半分で、ノートを開いた。しかし、開いても、これといったような情報はなさそうだ。数学の、方程式の問題である。9歳の子供が、とても理解できる内容ではなさそうだ。リウは、このノートを持ち帰るべきか否か悩んだ。そして、その結論は、とある理由から決まった。
「…もしかしたら、これ、ルマが使うかも。あのややこしい問題で…。」
ルマが、難しい数学の問題と戦っていると考えると、これは一つの武器になるかもしれない。そう思い、リウは、ノートを閉じて、手に持った。そして、他にめぼしいものがないか、探した。
「…うーん、そろそろ出ようかな。」
薄気味悪いし、早く出たいという気持ちも強いのだろう。これ以上めぼしいものも見つからないし、リウは、撤退することにした。教室の鍵が閉まっていないか不安だったが、扉は特に問題なく開いた。今まで、低い確率が重なりすぎていただけのかもしれないが。とりあえず、リウは、戦利品をルマに渡すことにし、図書室を目指した。道中、暗さ故に、リウもやや不安を感じていたが、特に何事もなかった。今更であるか。リウは、図書室の扉を開いた。
「だ、誰だ!」
突然、少年の声が響いた。逆に、リウが驚かされた。
「…なんだ、リウか。驚かせんなよ。」
二人とも、はにかみ笑いで見つめあっていた。感動の再開、というほど大袈裟ではないが、それに近いものである。
「ねえルマ。こんなもの見つけたの。」
リウは、持ち帰ったノートを、ルマが座っている椅子に付属している机においた。
「…これは、ノート?」
ルマは、ノートを手にとり、開いて見た。ルマは、ハッとした顔をした。
「これ…方程式だな?」
「え…。知ってるの?」
ルマは大きく頷き、自分がチェックしていたあの数学のノートの1ページを、リウに提示した。
「あのノートには、複数問題があってな。その中の一つに、方程式があるんだ。図書室の本探して、調べたんだぜ。」
リウは、ふむふむときいている。
「このノートがあれば、解法が分かるかもしれない。」
「な、なるほど…。というか、何で、答えを導く必要があるんだろう?すごく今更だけど…。」
「…多分、あの教室で出てきた奴を倒す、何かの手掛かりになるかもしれない、と思ったんだ。」
リウは、それをきいて、納得した。
「…もう少し、ルマと喋りたい。」
リウが、ボソッとつぶやいた。ルマは、それと同時に、リウの肩を軽く叩いた。
「いいよ、気が済むまで話そうぜ。」
それをきいて、リウは、満面の笑みを浮かべ、ルマの隣に座った。
続く