「リウ、お腹すいてないか。」
ルマは、リウにゆっくり語りかけた。リウは、静かに頷いた。それを見て、ルマは、ポケットから小包を取り出した。
「これ、家から持ってきてたやつだ、食えよ。」
そういって、リウに差し出した。リウは、小包を破いて、中のものを取り出した。なにやら、高そうなビスケットである。ビスケットでありながら、チョコレートも付着しており、中心に船の絵が描かれている。リウは、一口で食べた。そして、ほっこり笑顔になった。
「うん、美味しい。これ、何ていうお菓子なの?」
「そ、それはな…。」
言いたいが、言えない。
「そんなことより、小腹ふくれた?」
ルマは、かなり強引に話を反らした。リウは、やや不満そうだったが、頷いた。
「ルマの家って、美味しいものが多いよね。」
リウの軽い発言に、ルマは薄く微笑んだ。明記はしていないが、ルマは、経済的にはかなり豊かでありそうだ。実際、リウも、かなり裕福な暮らしを現状送れている。ピンクのキャミソールパジャマしかなかった服装も、今やそこそこのレパートリーがある。
「なんか、こんな話してると、おれたちが会ったばっかの頃思い出すね。」
雰囲気は、さながら、リウが病院住まいだった頃のようだ。違いとしては、リウが、ベッドで寝ていないところか。ルマの隣に、自分の体で座って、話しているのだ。
「あの頃は、お互いのこと全然知らなかったよな。まあ、今でも、よく分かってないかも知れないけど。」
ルマは、小さな笑い声をあげながら、そうぼやいた。
「この前、なんだったっけ。カレーライスだったっけ。とても美味しかった料理があったよね。」
リウは、今は食の話をしたいようだ。
「ああ、カレーか。美味しいよな。」
ルマも、のってきたようだ。
「あんなに美味しいものを食べられるなんて、幸せだな、私。」
リウは、夢見心地のような笑顔だ。あの味を思い出しているのだろうか。
「まあ、帰ったらまたママに作ってもらえばいい。とりあえず、今は、なんとかこの学校から脱出しないと。」
リウは、一気に現実に覚めたような感覚に襲われた。
「なんだか、少し疲れちゃった。」
リウは、うつらうつらしている。
「少し寝るか?」
リウは頷いた。ルマは、リウを地べたに寝かせ、自分の着ていた服を、毛布代わりに、リウに着させた。リウは、ルマに微笑み、目を瞑った。
「…さて、どうしようか。」
ルマは、何となく、机に置いてあった七不思議の本を、開いた。
「…。そうだ、あれ、見てみるか。」
ルマは、思い出したかのように、思い当たるページを開いた。
「…。」
・秀也
生息地 3年1組
このクラスには、一人、天才的な頭脳を持つ男子生徒がいた。問題集においても、解けない問題などまったく無かった。しかし、そんな彼にも、解けない問題が現れた。一つの数学の問題が分からなくなり、それと同時に、他にも分からない問題が数問でてきた。彼は、そこから混乱していき、次第に、リスカ等をするようになった。そして、ある日。教室で、彼は出血多量により、死んでしまった。それからというもの、夜に自身の教室に現れ、出会った人間を自身のナイフで見境なく襲うらしい。
「…。」
聞くだけで、痛々しい話である。ルマは、ついでに、弱点ページを開いた。
「…あれ、書いてる。」
しかし、珍しく、弱点のページが破られていなかった。
「なになに…。…ああ、そりゃ破る必要なんてないか。」
ルマは、破られていない理由をすぐに察知したようだ。一応、簡単に説明すると、彼を封印する方法は、単純明瞭。彼が解けなかった問題の解法を、証明すればいいのだ。しかし、ルマにとっては、それを知ったからなんだ、という話なのだ。おおよそ検討はついていただろうし、まず、この問題自体が非常にややこしいのだ。
「あーあ、長期戦は避けられないか。」
ルマも、なんだか眠たくなってきた。リウも、ぐっすり眠っている。ルマも、仮眠をとることにした。机に顔を伏せ、目を閉じた。
「ふぁあ…。」
少し経った後、ルマは、目を覚ました。
「どんくらい経ったんだ…。まあ、そんなことはいいか。」
ルマは、リウがまだ眠っているかどうか確認するため、リウが眠っていた所を見た。
「………!?」
ルマは、目を疑った。そこに、リウの姿はなく、自身の服のみが置き去りになっていた。
「な、なんで…。どこ行ったんだよ、リウ…!?」
さらに、服の近くに、茶色の長い毛が、2本ほど散らばっていた。ルマは、心臓に負担がかかるのを感じた。
「り、リウ…。」
ルマは、リウの無事を祈るしかなかった。おそらく。
続く