ルマは、懐中電灯で、校内を照らしながら歩き回っていた。隅々まであかりを灯し、リウの痕跡を探した。しかし、痕跡は、あの図書室の、数本の髪の毛のみだった。ルマは、心臓に強い負担がかかるのを、身を持って実感した。
「本当に…。どこにいったんだよ、リウ…!?笑顔で出てきてくれよ…。なあ、頼むって…。」
もはや、この嘆きに、希望を抱いているかどうかも怪しい。けれど、それでも探さないといけないのだ。
「リウ、いるか!」
なんて、教室をこじ開ける度に言うのも、もう何回目だろうか。本人はカウントなどしているわけがないが、覚えられないほどには言っている。その記憶を妨げているのも、単に数の多さではなく、ルマへの神経痛も関係していそうだ。
「リウ、いるか…!」
また発している。
「リウ、いるか…。」
ルマも、頭が痛くなってきたようだ。ヒントなどないし、万一見つからなかったら。想像もしたくない。
「…。」
ルマは、考えるのをやめた。本能の赴くままに、教室をあけては、中を確認する作業を、淡々とこなしていった。
「…次で最後か。」
ルマは、3年5組の前に来た。七不思議の出る場所を除いて、これで、○年△組の教室は終わりだ。ここにいなければ、教科教室に賭けることになる。とりあえず、ルマは鍵を
『えー、それほんと!?』
「…!?」
ルマの背筋が凍った。
[ま、まて…。ありえない。リウにしては大人びている声だし、生身の人間とは思えない…。]
『ほんとだって!』
『嘘ー!信じられないー!』
声が響く度、ルマは体温が下がるのを感じた。
[…。次、声がきこえたら、踏み込むか。怖いけど。]
ルマは、しばらく聞き耳をたてていた。
『ところでさー、あの映画見たー?』
『あー見た見た!すごい結末だったよねー!』
[今だ!]
ルマは、扉を一気に開いた。
「…。」
誰もいない。ルマが教室に入ったことにより、さっきまでの声もピタリと止まった。声もそうだが、やはりリウがいない。ルマは、落胆した。
「本当に、どこにいったんだあいつ…。生きてるんだよな…?」
ルマは、リウの生存が不安になってきた。彼女は、ルマにとっては、最愛の親友なのである。おそらくリウにとっても、同じ感情のはずだ。そんなパートナーとも言えるべき存在が、自分がよりそう期間も得られずに、この世から消えてしまう。我々の世界でも、某ウイルスによって、そういった事象が起きているが、ルマにとってはわけが違うだろう。とりあえず、ルマは、図書室へと戻ることにした。
「…。」
ルマは、落胆しながら、ゆっくり歩いていた。懐中電灯は、風景は明るく出来ても、ルマの心までは明るく出来ないようだ。ただでさえ遠い道程が、余計長いように感じた。体感、かなり長い時間歩いた後、図書室前についた。ルマは、図書室の扉を開け、中に入った。
「…!?」
ルマは、一気に体が凍っていくのを感じた。
「な、何が起きたんだ…!?」
図書室が、異常なほどに荒らされている。本棚から本が転げ落ち、窓ガラスも、ひびが増えている。
「な、なんだこれ…。心臓に悪すぎるだろ…。」
ルマは、とっさに、自分が用いていた机を見た。
「…。」
幸い、ルマの私物は、荒らされていないようだ。ルマは、少しだけだが恐怖が和らぎ、机の方へと向かった。そして、私物の存在を確認していき、ノートに目をやった時だった。
「見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見」
「…!」
ルマの用いていた、数学のノートに、見るなという文字が大量に刻まれていた。ルマは、背筋が凍りつくのを感じた。
「…。」
いよいよ、七不思議たちが、本格的に牙を剥いてきたのかもしれない。ルマは、思考を停止させ、椅子に座りこんで、しばらくぼーっとしていた。
ツヅク