室外機の音と、人々の地を踏む音が、街中に響きわたる。電柱や、街灯、少しさびれた自動販売機も、立ち並んでいる。何故だか、空は明るいのに、雰囲気はどことなく暗い。そんな街を、一人の子供が歩いていた。
この子供の名前は、エマ。背は低く、体も細い小柄な子供だ。瞳は黒く、髪の毛はショートヘア。エマの瞳は、一寸先の、さびれたノスタルジックな町並みを捉えている。しばらく立ち止まっていたようだが、また歩き始めた。
エマの横を、電車が走っていく。電車の引き起こす風に、エマのシャツも、髪の毛も、威圧を感じているようだ。反して、エマ自身は、感情を出さず、電車の窓を見つめている。別に、これといった目的はないのだろうが、エマは立ち止まってまで、にらめっこしていたいようだ。しかし、無慈悲にも、電車は瞬く間にエマを置いてきぼりにした。エマは、後ろ姿まで、電車を見送った。
エマが歩いていると、ふと違和感を覚えた。下にあるマンホールだ。人々の話し声以上、室外機以下の音が、響いた。とはいっても、人々の話し声など0に等しい以上、あまりにも変域が広すぎるか。踏んだと同時に、自動販売機が目に入った。自動販売機の横には、やたらゴミが積み上がったペールが、放置されていた。天然水、ソーダ、缶コーヒー等が、120円~140円くらいで売られている。しばらく見つめていたが、視線を元に戻し、また歩き始めた。
薄暗いトンネルへと、エマは足を踏み入れていった。先はやや長い。それでも、エマはペースを乱すことなく、ゆっくりと歩いていく。無表情だが、どことなく綻びを感じる顔を取り繕ったまま。景色は暗いが、それ以上に暗いトンネルの風景を、エマはどう思うのか。そんなことなど、この子にとってはどうでもいいことか。歩いているうちに、エマの視界に光が灯った。影が、エマを暗くする所業も、ここまでか。
ふと、公園にある時計に、視線を向けた。16時41分を指している。エマはしばらく硬直していたが、ふと、公園で遊ぶ子供たちの姿が、視界に入った。何とも幼い子だ。表情にも行動にも、邪気がまるでない。エマは、目を瞑った。しばらく瞑っていたが、また開き、別の方向を向いた。足が、公園から遠ざかっていく。
ここのあたりは、住宅街でもあるのだろうか。一軒家が、はたまた物件が、ずらりと並んでいる。エマは、ゆっくりと、さらにゆっくりと、歩き始めた。洋風な街並みはさながら、美しささえも感じる。エマは、ただただ一声も発することなく、住宅街を歩き終えた。
「帰ろう。」