「…なあ、図書室行こうぜ。」
ルマが、そっとつぶやいた。小さな声に対し、リウもエマも小さく頷いた。そして、ルマは立ち上がり、三人は保健室を後にした。
二人は、図書室にどうも親近感を覚えているようで、図書室のイスにすぐさま座った。対して、もう一名は、二人が座ったのをもく認してから、すぐ近くに座った。
「ねえ、二人って、兄弟なのかな。」
エマが、ふともちかけた。
「いや、そうでは…。」
「うん、そうだよー?」
二人の回答に、エマは露骨に眉をしかめた。そして、今一度質問を投げかけた。
「えっと…兄弟なのかな。」
「なんていうか、兄弟じゃないけど…。」
「兄弟みたいな関係だよねー。」
二人の回答に、エマは顕著に眉をしかめた。
「ルマ、君とリウは兄弟なの?」
エマは、2度あることを3度起こさぬよう、あえて対象を指名した。
「なんていうか、こいつは、その、本来の俺の家族ではないっていったらいいのか?」
「養子かな。」
「ヨウシ?」
「血縁関係はないけど、人為的に家族っていう扱いになってる子のこと。」
「うーん、まあそんな感じかなあ。」
ルマの目は泳いでいる。何を言ってるか、よく分かっていないのだろう。そこに、リウが補足しにいった。「あのね…。」
リウは、ルマとの出来事を話した。
「…なるほど。そんなことがあったんだね。」
エマは、笑顔できいていた。しかし、リウにもルマにも、ある共通の疑念が浮かんでいた。
「すごいな。」
笑顔は、心の底から生じたものではなく、エマによって繕われたものなのではないかと。
「すごいね、リウ。とても、少し前までは、歩くことも話すことも出来なかったとは思えないよ。」
「あはは…。」
そんなエマに対しては、リウも、繕った笑顔でしか返信できなかった。しかし、二人とも取り繕っているにしても、それに至る素材は別途であろう。もとより、エマに関しては、ここまでの命題が真であると仮定してだが。
「リウとルマの親御さんは、優しいの?」
「うん、すごい優しい。」
「料理も上手いし、ほんとに不自由なく暮らせてるって感じかな。」
何も知らないリウとルマのコンボが、エマのHPを削っていく。
「…いい親御さんを持てて、よかったね。」
エマの発言の先頭が少しくぐもったが、リウとルマに反応させる程のものではなかった。
「エマの親はどうなのー?」
これまた何も知らないリウが、エマのメンタルを大きく削る。
「…君たちの親御さんが羨ましいな。」
直接的な答えではないが、間接的な答えとしては、十分機能している。国語のテストだとしたら、△の出来だ。エマとしては、出来る限りの答えであっても。
「…え、それってどういう…。」
「リウ、これ以上はやめろ。」
ルマが止める。模範解答もいいところだ。リウの行動は、部分点すらろくに稼げていない。
「ルマ、いいんだよ。」
そんなルマをよそにはしていないがよそに、エマは話し始めた。
「…私の家庭は、認めたくないけど、いい環境とは言えなかった。」
それをきき、リウとルマは笑えなくなった。
続く