私の家庭は、あまり認めたくないんだけど、とても荒んでいたんだ。親から愛情なんて受けたことないし、運動会やら音楽会やらに親が来てくれたこともなかった。家に帰ったら、父親からは怒鳴られて、母親からは家事をやらされて…。正直、家にいるのは苦痛だったな。何一つ楽しいことなんてなかったし。
でもね、私も、学校で友達はいたんだ。…とても優しい子でね。地味で静かだった私に、いつも近づいてきてくれた。まさしく、リウに近寄るルマのようなものだよ。ほんとに人柄がよかったんだろうね。その子の名前は、ペトラ。とても明るい女の子で、私とは対照的だった。
「ねえエマちゃん!給食一緒に食べよ!」
「あ…うん。」
給食なんか、いつも一緒に食べてたな。小学1年生の時から、クラスはずっと一緒だったから、一緒に食べなかった日はなかったんじゃないかな。…いや、どっちかが病欠とかした日とかもあったっけ。まあそんなことはいいんだ。私にとって、彼女は唯一の心の拠り所だった。
「おいペトラ、お前なんであんな地味な女とずっと仲良くしてるんだよ!」
「え…。べ、別にいいじゃん!友達なんだから!」
クラスでは、こんな会話が聞こえてくるときもあった。男子たちに地味な女と称されているのは、当然私だろう。こんなことがきこえてくる度、私は、ペトラに仲良くしてもらっていることを申し訳なく感じてしまった。彼女は、それでもなお私といてくれるから。無理もないよね。
「ねえ、エマって、家ではどんな感じなの?」
「え…。」
事件が起きたのは、とある日の給食の時だった。この時は小学5年生だった。
「それってどういうこと…?」
「いやまあ、家でお父さんとかお母さんとかとどんな感じなのかなって。」
私は、この質問をくらった瞬間、何かに心臓を突き刺される感覚をもったんだ。この5年間、そもそもこの質問を今までされなかった理由が不思議に思えたけどね。
「…だって、エマ、いつも暗いもん。もっと明るくいてほしいのに、なんでなんだろうって…。」
きいてもいないのに、私にとっては、非常に余計なことを言われてしまったんだ。そもそも根の性格は人それぞれだし、こっちの家庭環境もある。だから、そんなこと気にしないでほしかった。まず、なんで今になって、急にそんなことを言うのかとも思った。それで…私は少し、怒ってしまったんだ。
「…そんなの人それぞれじゃん。なんで君にいちいちきかれないといけないの?」
「ご、ごめん。別に怒らせるつもりで言ったわけじゃ…。」
「ほっといてよ。君につべこべ言われる筋合いはないから。」
「…。」
その後、私たちは席こそ変えなかったものの、終始無言の給食だった。食べ終わり次第、すぐに机を離し、互いに離れた。私は、ペトラにきつく言ってしまったことをその時既に後悔していて、翌日にでもすぐ謝ろうと考えていたんだ。さすがにその直後は、私としても気まずかったから。少し時間をおきたかったんだ。
でも、悲しいかな。
私が、ペトラに謝罪の意を伝えられる日は、2度と来なかった。
続く