あまり感情を顕にしないエマだが、彼女のトラウマは、彼女の感情を大きく引き出すだけの力を持っていた。
「私が…そもそも私がいなければ…ペトラは…。」
エマは、延々と泣いている。時間が経つほど、彼女の涙腺は余計に崩壊を起こしていた。リウもルマも、一声かけるべきか悩んでいた。
「…ねえルマ。エマをなんとかできないかな?」
リウが、藁にもすがる思いで、ルマに一声かけた。ルマは、しばらく黙っていたが、間もなく、リウの方を見つめて、小さく、けれどはっきり一言発した。
「なんとかしてみる。」
ルマは、そういうと、少しずつエマの方に近づいた。リウは、それを見守っていた。しかし、リウは、この選択を、大きく後悔することとなる。そして、ルマも、それを感じたであろう。
「な、なあエマ。」
「…え?」
泣いているエマに、静かにルマは声をかけた。そして、エマに放った。
最悪の台詞を。
「そんな気に病むことないだろ!たしかに友達はいなくなったかもしれない!でも、それでもお前が死んだわけじゃないんだから!な!」
「…は?」
悲しいかな、ルマにとっては、励ましているつもりなのだ。前回の回答はまぐれか。的外れもいいところの発言を惜しまずするルマを、エマは黙って見つめていた。その瞳は、悲しみを通り越して、怒りや失望すら感じさせるものだった。
「だから、何も気にすることない!別にお前が」
「…ふざけんじゃねえぇぇ!」
「え…!?」
突然、エマがルマを突き飛ばした。そこにいるエマは、リウとルマの知るエマではなかった。ルマを見つめるその瞳は、一種の殺意すら感じさせられるほどに冷酷だった。ルマは、状況がまったく飲み込めていない。リウは、ただ二人を見ていた。
「友達がいなくなったけど気にすることないだと…?ふざけんな!お前みたいな生まれて不自由なく暮らしてきたやつに、ワタシの気持ちが分かるもんかよ!」ルマは、ここでようやく、自分のミスに気付いたようだ。しかし、今更気付いたところで、エマを止められるかといえば、無理だろう。
「親からろくに愛情も受けられず、やっとできた友達まで神の悪戯で消されて、ワタシには何が残ってるってんだよ…!てめえみたいな奴に偉そうに言われる筋合い、なんもねえんだよ…!ワタシの…ペトラを…そんな軽視するんじゃねえ…!」
「え、エマ、落ち着いて!」
リウがとめにかかる。
「離せ!」
しかし、エマが、リウを突き飛ばした。リウは、暴走しているエマを見て、何か悟った。
本気で、ルマが危ないんじゃないかと。
「ま、待て!エマ!おれが悪かった!で、でも、そんな怒ることでは…」
この一言は、エマを余計に刺激した。
「怒ること…?もともとてめえが無責任な発言かましたからこうなってんだろうが…。お前には分かんねえだろうな…。孤独ってのがいかに寂しいか…。すがる相手もいなくて、家ではただ親に粗末に扱われるワタシがいかに惨めか…。お前なんかには分かるわけねえんだよ!」
同時に、エマが拳をかかげ、ルマの顔面におろした。とっさの判断で、ルマは顔を横に反らし、直撃を防いだ。しかし、エマの怒りは収まっていない。リウは、一か八かの行動に出ることにした。
続く