「…ペトラがお亡くなりになった日の前日…彼女はどうしていたんですか?」
無責任かな。この質問を投げかけた際、私の頭の中は、不覚にも空っぽだったよ。不可抗力だったんだよ。仕方のないこと。その時、お母さんはしばらく黙り始めたの。そして、思い出すのもしんどそうだったけど、なんとか私に話してくれたんだ。その際、私はある程度暗い話になることは覚悟してたよ。
「…あの子がいつも明るかったのは、仲が良かったあなたならよく知っているよね?」
私は、小さく頷いた。お母さんにどう見えていたかは分からないけど、この時は、私はまるで異空間にいるような感覚だった。とても真っ暗、というか何も見えない空間に、私達という名のテーブルセットが設置されてるの。灯りはそこにしか照らされていないんだ。「あの日、あの子は一日中自室にいたの。いつもなら家に帰って、おやつを食べて、その日のことを話して…としていたのに、すぐに部屋に戻っていっちゃったの。」
お母さんの話を、私は目を瞑ってきいていたよ。…意図?わかんない。
「何か心配だったから、その日はあの子の好きなハンバーグを作ったけど、あまり喜んでくれなかったの。その後も、少し声をかけにいったけど、大丈夫、としか帰ってこなくて…。」
「…すみません。」
私は、その時、どうしても抑えられないことが頭を過って、離れなかったんだ。そして、それをお母さんに打ち明けたんだ。
「…ペトラの部屋にいってもいいですか?」
私は、恐る恐るペトラの部屋の扉をあけて、中に入っていったよ。当時の私に、配慮なんてものは微塵もなかった。それ故こんな凶行に出られたんだろうね。嫌な話だよ。
「…。」
遊びにきていた時と、レイアウトも感じもほとんど変わっていなかった。そんなことを思っていた刹那、私の瞳は、床の一枚の写真を捉えたんだ。私は反射的にそれを拾って裏返した。
「…。」
ペトラと、小学3年生の時に夏祭りに行った時の写真だったよ。水風船を片手に、口元だけ笑っている私と、わたがしを持っているのと対称の手でピースをしながら満面のウインクを見せているペトラのツーショットだった。…すごい楽しかったよ。私はそこから思い立って、ペトラの机の引き出しを引っ張った。こんなこと人間的にしちゃいけないのは分かってるんだけど…。中にはたくさん写真があったよ。どの写真も、楽しかったかの日が写っている。そして、私たち二人しかいなかった。
「…?」
私は、机の上の片隅の片隅に、何か置いてあるのに気づいたんだ。何も考えずに引っ張ると、それは封筒だったの。しかも、私宛。そして、私は恐る恐るその手紙を読むことにしてみた。結論からいうと…。後悔したよ。
エマへ
やっほー。ペトラだよ。…君がこの手紙を読むころには、もう私はきっと、この世にはいないと思う。…ごめんね。エマに相だんする勇気がでなかった。でも、かんちがいしないで。エマは何も悪くないから。…本当にごめんね。私の分まで、精一杯生きてくれると嬉しいな。あと…あの日はごめんね。面と向かって謝れなくて。
ペトラより
脳裏には、ペトラとの楽しかった記憶が、次々と湧き上がってきた。当然、そんなことを思い出したいような時ではなかったから、なんとか頭を真っ白にしようとした。でも私の脳の悪戯は、より一層エスカレートしていった。そして次第に、私の目からは、涙が零れてきたよ…。
「うぅ…。あぁ…。」
私は、その場に座り込んで、小さな声で涙を流していた。でも、そんな繕いがいつまでももつわけないよね。
「うわああああん…!」
私は、次第に、本能に抗えなくなっていっちゃったの。
「なんで…。なんで私に相談してくれなかったの…!?なんで一人で全部抱え込んだの…!?君にとって私はその程度だったの…!?」
いもしないのに、こんな独り言をほざいてたよ。ペトラがいなくなったことに対しての悲しみもそうだったが、自分への不甲斐なさも強かった。自分が許せなかったんだ。きっと、私自身でもう少しなんとか出来たんじゃないかなって…。
「うう…。ひっぐ…。うう…。うわあああん…!うう…!」
とうとう私は、大声で泣き始めた。ほんとに情けなかった。でも…。
続く