「だいたい、あんたはエマの面倒なんか全然見てないんだし、私の方が親権に相応しいわ!」
「ふん、給料も稼いでない主婦のくせに図々しい!俺がいないと家計は破綻するんだぞ!」
下の階からきこえる罵詈雑言に、私は参っていた。こんな夫婦喧嘩なんて見たくもないし望んでもいない。私はただ安静と平和を求めているだけなのに。
「…。」
私は、下の階に降りて、すぐにあるリビングに向かったんだ。両親を見るなり、ぼそっと呟いた。
「…お母さん、お父さん、もうやめてよ。そんなに争わないで…。」
「うるさい!部屋に戻ってなさい!」
私は、いつもの返し文句に、すごすごと立ち去るしかなかった。なんで…。なんで私にそんなに言うの…?
私のお母さんは、ただただ高収入な夫だけを求めていたらしいの。その結果、傲慢さが目立っちゃったのかな。物心がついた時から、お母さんは毎日お父さんと言い争ってるの。夫婦喧嘩なんて勝手にやってくれとも思うけど、うるさいし、どんどん家庭は荒んでいくし、私にまで被害が及ぶし…。私が何をしたっていうんだろう。
「…もういいや。」
私は、現実から逃げるために、いつも外へ出掛ける。散歩程度で気が紛れるわけないけど、あんな家にいても精神が狂っちゃうだけ。…正当防衛?過剰防衛?知らないそんなこと。これで私が現実から目を背けられるならいいんだ。
「あんたなんて生まれてこなければよかった。」
その言葉が脳裏を過った瞬間、すさまじい頭痛がした。せめて家の外では、辛いことなんて忘れたいのに。脳にジオラマをかけて、なんとかしようと尽力しても、身に覚えのない罪悪感は余計増してくるだけだし…。
「…。」
「あんた、どこいってたの?」
「…。」
「返事くらいしたら?」
…るさいうるさいうるさい…!ほっといてよ…!あんたのせいでどれだけ気が滅入ってると思ってるの…!?もう限界に近いんだよ…!
「待ちなさい!」
後ろの物の声を無視し、私は扉を閉めた。なんだかすごい疲れた。静かな明日が欲しい。その程度の願いすらも許されないの?私だって必死に生きてるけど…。でも、こんなところでまで、その必死さを出す必要なんてあるの…?ねえ、誰か聞いてよ…。誰か答えてよ…。辛いよ…。寂しいよ…。
「…。」
私は、満月を見ながら、人影のない夜道を歩いていた。というのも、ある場所に向かってたんだ。え?家じゃないよもちろん。…もうね、私は限界だったんだ。努力が認められるわけじゃないし、というか私の努力ってなんなんだろう…。考えたら余計わかんなくなってきた…。はは…。…もういいや。
「…。ここかな。」
私は、地図を再確認した。
「…うん。そうだ。ここなら…。」
「誰にも邪魔をされずにいられる。」