リウとルマは、中庭へと向かった。道中はなんら普段と変わりはないのだが、2人にとってはそうは思えなかった。中庭へと通ずる扉も、以前よりも数倍重く感じた。
「…多分、おれが池に近づいたら、出てくるよな。」ルマはぼそっと呟き、リウが頷いたのを確認した。リウは、オオバサミをルマに渡し、ルマはゆっくりと池の方へと近づいた。
「…怖い。」
リウは、容赦なくルマを後ろから押した。
「ちょ、何すんだよ!」
「え、もうさっさと終わらせようよ。どうせ対処の仕方は分かってるんだし。」
リウの空気の読まない気の強さに、ルマはしかめっ面を作る他なかった。禁足地ともいえる池に近づくのは、先入観があると逆に近づきづらいものなのだろう。「…いくぞ。」
ルマは、池の前まできた。池を覗いてみるが、やはりというか何もいない。出てくるまで待つしかなさそうだ。
「…まだかな。」
リウが小さな声で呟いた。こういう時間が、案外一番心臓に悪いものである。次第に2人は、沼子さんが早く登場するのを待つようになった。そして、その時だった。
「…!」
突然、ルマの足が何者か…いや、最早説明など不要であろう。沼子さんに掴まれた。沼子さんは、相変わらず表情が一切ないまま、ルマを引きずりこもうとした。
「ほ、ほら、これを見ろよ!」
ルマは、得意げにオオバサミを掲げて見せた。その瞬間だった。
「…!」
突然沼子さんは、ルマの足を離した。普段のような無表情とは違い、とても怯えた顔を作っていた。
「それ以上おれに近づくなら、やるよ?」
ルマは、プレッシャーをかけて、沼子さんに近づく。「や、やめて…。」
沼子さんは、泣きそうな顔で、体のみ後退りしていく。ルマは、顔までも怒りを繕い、余計に沼子さんを追い詰めようと図った。
「よくもあんなにおれを危ない目に合わせてくれたよな。なあ?」
沼子さんに当たらない程度に、オオバサミを近づけた。沼子さんは、泣きながら訴えにかかった。
「お願い、やめて…!」
ルマは容赦なく、沼子さんを追い詰める。
「悪いけどお願いで許されたら警察いらないんだよ。あんたがしたこと償ってもらおうか。」
そしてとうとうルマは、とうとうオオバサミを開き、沼子さんの腕に近づけた。
「いやああああぁぁぁ…!!!」
とうとう限界を迎えたようだ。沼子さんは号泣しながら、体を光らせ始めた。そして、少しずつ光と化し、粉となって消えた。
「…。」
そこからしばらく沈黙が続いた。そして、先に声を出したのがリウであった。
「…ルマ、容赦なかったね。倒さないといけないとはいえ、ちょっと可愛そうだったよ…。」
「あそこで追い詰めないと、成仏は難しいと思ってな…。気の毒だったけど仕方ない。」
「…沼子さん、来世ではちゃんといい人生を送ってほしいな。」
そして、2人は、中庭を後にした。
「ただいま…。」
「おや、無事みたいだね。」
エマは、帰ってきた2人を見るや否や、問題なかったことに安堵している。
「おつかれさま。これで封印した七不思議は…3体かな。」
「はあ、まだ半分もいってねえのかよ。」
ルマは、大きくため息をついた。リウは、ルマの肩を軽く叩いた。
「…そういえばさ、会話人形って退治できるの?」
リウが、ぼそっとエマに尋ねた。
「出来るよ。でも、少し退治の仕方が特殊でね…。」そういいながら、エマは本棚から、いつもの七不思議の本を取り出した。そして、ページをめくりながら席に戻り、会話人形のページを開いて見せた。
「会話人形は、人を家庭科室に招き、そこで心を奪ってしまう。リウもたしか一回被害にあっているよね。」
リウは、小さく頷いた。
「会話人形を成仏する方法は至って単純。心を奪われないように、気持ちを強く持ち続けるだけ。」
「え、それだけ?」
意外そうな顔をするルマに、エマは首を横にふった。「それがね、なかなか大変なんだよ。リウだって簡単に洗脳されたでしょ。ルマがすぐ来たからよかったけど。」
そういわれ、ルマはしぶしぶ頷いた。
「気持ちをとにかくひたすら強く持って、仲間には入らないっていえば、会話人形は興味を失う。そしたら諦めて成仏するよ。」
「いやじゃあエマがいってくれよ。あんた一番感情の起伏なさそうじゃん。」
エマはルマを叩いた。
「私をあんなに怒らせてよく言えたね…。」
リウは、話をまとめた。
「じゃあ、会話人形に洗脳されないように、ひたすら拒否したらいいってこと?」
「まあ、そういうことかな。でも…。」
「…?」
続く