ヴェリナード城 廊下。
ふらつきながら大量の資料を持ち歩くウェディの軍人が
いた。それは若くして軍に入隊し、軍内で名を馳せた
アスカであった。歩く内にある部屋の前に立ち止まると
「総司令ー入りますよー」
と言いながら、アスカは扉を押し退けるように部屋へ入っていく。
「ロスウィード総司令?・・・あれ?いないのかな?」
持ってきた資料を近くの机に置くと、アスカは
総司令官が座る華美な椅子のある机の所にいく。
「ん、これは・・・?」
と、置き手紙を見つける。それを開いて、中身を読むと
アスカは手に持つ紙がぐしゃとなる。
「そ・・・総司令のお馬鹿!!こんな時にどこにいったんですかぁー!」
大声が響いた。
☆
グレン城、武器鍛冶ギルド。
そこに二振りの剣を携えた男が訪れていた。熱く消える事がない
炎が燃える石造りの溶鉱炉の横に設けられた階段を登り、
男は、武器ギルドマスターの元に着くと
「おう、珍しい客じゃないか?ロスウィード総司令官殿?」
「その呼び方はやめてくれ。今日は剣を鍛え直して欲しくて
来たんだ。いつもの職人は居るか?」
「鍛え直すかぁー・・・まいったな」
とギルドマスターは困ったように頭を掻く
「ロスウィードさん御用達の職人なら、未知の素材や武器を求めて
借金してタイタス号のチケットを購入して、レンダーシアへ
いっちまったんだよな」
「何?それは本当か!」
ロスウィードは驚く。
「だから、その剣を鍛え直せる職人は居ないな」
「そうか・・・では、出直すしかないな」
「悪いな、まぁもしかしたら・・・アイツもどっ・・・」
「私を呼んだかい?」
と二人が話してる横から声をかけてきた。その方を向くと
そこには小柄な体駆のドワーフの女性が身の丈に合わない
長いハンマーを肩に担いで持って、立っていた。
「おー噂をすればなんとやらか、”あおい”帰っていたのか」
「ちょっと今の仕事で、どうしても必要なものが出てきちゃってね」
あおいの隣には、麻の袋一杯に色んな素材や道具が
詰め込まれていた。
「なんか困ってるようだけど、よかったら私にも聞かせて
くれない?」
☆
「なるほど、剣を鍛え直しに来たが、出来る職人が旅立って
しまって、大変だったと言うことか」
とあおいは、手慣れた動きで剣を打ち直し、焼き直し
研ぎ直しをしていた。
「あぁ、何分こういう事はあまり得意ではないから、
いつもここの知り合いの職人に任せていたんだ」
「なるほど、今回は私が居たから良いが・・・」
あおいは、作業の動作を止めて、振り向かずに
「・・・・というかアンタ、今ヴェリナード王国で
準備している”作戦”の総司令官さんじゃないかい?」
言われた瞬間、ロスウィードは身構えた。
「き・・・貴様!敵か!」
「あー!待ちな待ちな!私は敵じゃないよ」
あおいが制止するが、ロスウィードは戦闘姿勢を
崩さない。
「私は、あんた達の作戦に参加してる冒険者だよ!
だから身構えるのをやめておくれよ。」
「・・・・むぅ、さすがに冗談には受け取れなかったぞ。
しかし君も作戦に参加する冒険者だったのか」
あおいは再び手を動かし、仕上げに入る。
「私は今回、技術提供だ。敵地に前線基地を築く
OZのロマンっていう男の手伝いもする予定だ」
と言いつつ、あおいは仕上げた剣を持ち上げて
見定める。
「よし、これでどうだ?」
あおいは仕上げた剣を返す。ロスウィードはそれを
手にとり、同じように見定めると腰に納めて
「あおいさん、感謝する。納得の行く形だ」
「そいつはよかった。相手の要望のものを作り上げる
これも職人冥利に尽きるってものだ」
あおいは嬉しそうに笑顔になる。
☆
グレン城下町。
ロスウィードとあおいは一緒に外に出ていた。
「さて、私はすぐにヴェリナード城に引き返す。あんたは
どうするんだい?」
「そうだなー」
と言った時、パタパタと郵便カバンを携えたドラキーが
二人の前へやって来る。
「なんだい?このドラキーは・・・?カバンにヴェリナード軍の?」
「む、まさか・・・!」
ドラキーは、カバンから手紙を出すとロスウィードに差し出す。
受けとると開けて、読み始める。すると、ロスウィードは額から汗を流し、
「あ・・・あおいさん、一緒・・・いや先に私はヴェリナード城に帰ります!
それでは!!」
とロスウィードは手紙に脇目もふらず、全力疾走で駅へと走っていた。
あおいは風で舞った手紙を手に取り、見る。
「なになに?”総司令?どちらにいますか?仕事残っています。
今すぐ帰ってきてください。あと色々覚悟してて下さい アスカより”」
あおいは苦笑いを浮かべ、ロスウィードの向かった駅の方を向いた。
その後、彼がどうなったかはご想像にお任せします。