「じゃあー俺に見せてみろよ?その力ってヤツをな…!」
その挑発に、ますます不機嫌になったマイカは
杖を構え、
「呪文加速(早詠みの杖)!魔力かくせい!」
杖と魔法使いの専用特技を同時に発動させる。
そこから、一気に2つの強力な魔力が両手に集まり、
「三倍第一詠唱・高熱火球呪文
(ドライ ファハ エアストグザン・メラゾーマ)!!」
「三倍第二詠唱・上級氷結呪文
(ドライ ファハ ツヴァイトグザン・マヒャド)!!」
同時に詠唱するとおよそ対応する元の呪文とは違う様相の巨大な炎の球と
氷の刃をそれぞれ形成しだす。
「ほうー怖いなー?」
ライオウが大剣を構えようとした瞬間。その体に白い糸のようなものが
幾重にも絡みつき、その動きを封じられてしまう。
「三重・拘束仕掛け罠呪文(ドライファハ・クモノ)。何もさせませんよ?」
マイカがいつの間にか仕掛けていた罠に引っかかってしまっていた。
それにリルカも、言葉をなげかける。
「ライオウさん!」
「大丈夫だ、心配すんな!」
そのやり取りに、マイカは
「何を言っているんですか?…貴方はここで終わりです!…消し飛びなさい!!」
と言うのと同時に、ライオウに向かって巨大な炎の球と氷の刃を投げつける。
しかし自身の命の危機にも関わらず、その表情はとても楽しそうだった。
「コイツは”避ける必要は…無いな!”」
と言った直後になんと、ふんッ!と体の力だけでクモノの糸を
難なく引きちぎってしまう。そしてそのままその場で両手剣を
大きく振り上げる。
「どんな”呪文が来たって無駄だぁぁ!”」
叫びながら闘気を放つ。その闘気でライオウの立つ床が沈み、
「全部…一撃で斬ればいい!!ウオオオオオッ!」
同時に両手剣を大きく力強く振り下ろすと地割れのように床がめくり
上がって行くほどの、凄まじい剣圧が走り、マイカの放った2つの
強大な呪文にぶつかる。
爆音と共に互いの攻撃は拮抗しあう。周りの壁を壊し、部屋を揺るがす。
しかし、そんな一時も長くは持たず、
「まさか!ありえない!だたの一太刀が呪文を超えてくるなんて!」
ライオウの剣圧が、マイカの放った2つの呪文を徐々に押し込んで行き
そして…ついに
炎の球と氷の刃は、かき消された!
「そんな!きゃああああっ!!」
突き破った一撃は、マイカの体を壁へと突きとばし、打ち付けられた。
「…じゅ、呪文…すら、超えて…攻撃、する…なん…て… う」
と、ズリズリと壁を落ち、マイカが意識を失うと、それに
合わせて衣服が元の色へ戻った。
☆
オルセコ闘技場の戦いは、戦意高揚していた雷神会側の
圧倒的優勢で進み、途中参戦した頭領ライオウを見たエゴート団の
団員たちはその余りの勢いや裏社会界隈に流れている噂に、
恐怖し途中で武器を捨て、逃げていく者も多かった。
現在、闘技場は雷神会が防衛する形という事になり、
ガートラントの衛兵団と調査団が到着するまでの間だけ
管理していた。別働隊で動いていたジンライも遅れて、
到着する。
その外には、簡易で設営したテントがあり、中では
「うぅ…。痛いよ…」
と呻く声が漏れる。着ていた服を脱がされて、体中包帯だらけで
いるマイカ。それを看ているライカとリルカが居た。
「何、言ってるんだい。あの一撃を受けて、生き残っているのは
すごい事よ?”私”も耐えられたか」
「ライオウが打ち込む一撃ってね。立ち上がれる人は絶対居ないんだよ。
みーんな動かなくなっちゃうってジンライが言うんだ。」
「うぅ…生き残っているのは良いですが…これは…痛い痛い!」
マイカは涙目になりながら、暴れる。それをリルカは抑える。
「もー大人しくしてないと治らないよー」
「こら!あんたも立派な冒険者でしょ?…我慢しなさい!」
二人のエルフとオーガの少女達がバタバタと暴れる光景が
広がるそのテントの前には、一人どっしりと座り、いつ
持ってきたか分からないが、本を片手にのんびりと
過ごすライオウの姿があった。
「ダンナ!追加の包帯と薬持ってきやした」
「おう、もらおう。」
「いやいや、ダンナもお疲れでしょうーここは
持っていきま…」
「こら、この先は行かせられねぇぞ」
ジンライはテントの中に行こうとするが、ライオウに
引き止められてしまう。そんな時に、二人の後ろから
水や布を持った”リルカ”が姿を現した。
「んあっ!?…リルカ!お前!今、中なんじゃないのか!?」
「いや、アタシは…今からこれをテントに持って行く所よ」
リルカが言った直後に、二人はハッと驚き、
「しまった!!」
「ダンナ!!」
二人とも武器を構えて、テントに踏み込もうとすると
「大爆裂呪文(イオラ)!」
マイカが呪文を詠唱する声が響く。
続く