〜ヴェリナード城〜
純白の清楚な佇まいの廊下。
そこを一人で歩くのは先日、ドワーフの少年が
主体となり、発案された突入作戦の部隊の
副司令を務める事になったウェディの少女”アスカ”
尊敬する人物であるロスウィードの指揮のもと
頑張ろうと意気込んでいたが…。その準備中、
上官は要件があると何かと姿をくらます。
突入する冒険者たちのリスト確認、
作戦に使用する特務艦の点検や物資の発注、
報告書のまとめなど
雑務を彼女が一手に引き受けていた。
「もぅ…あの人は…いつもどこに行ってるんですか…!」
作戦成功のためとは言え、目がまわるほどの仕事の山に
次第にアスカの怒りが大きくなっていた。
そんな彼女の背中を叩く者がいた。
「アスカ〜?」
「なんですか?…私は今、いそがし…」
不機嫌そうに振り返ると、そこには彼女がよく知る
二人がにっこり笑みを浮かべて立っていた。
「リルカお姉ちゃん!それにマイカも!」
嬉しそうに、リルカに飛びつくアスカ。
「おいこら…子どもじゃないんだから飛びつくんじゃないよ」
「だって会うの…久しぶりじゃない?」
「ここじゃ、恥ずかしいよ」
マイカが顔を隠しながら、
往来する他の兵士たちが見ている事を伝える。
「「あ…。」」
☆
作戦の雑務に忙殺されそうになっていたアスカの休息を兼ねて
場所を移し、城内の食堂へと足を運んでいた。
「えっ!お姉ちゃん、今極秘…ぶごふぉふぉのぉー!?」
マイカが大声で驚きそうになるところをアスカとリルカで
口を塞ぐ。周りにいた兵士たちは、一瞬彼女たちに
視線を向けるが、すぐアスカが謝ると散っていった。
「…しかしお前が、そんな大役を任されるなんて凄いな」
「私もびっくりだよ〜。それに”2年前の任務”で出会った
ロスウィード……さんが総司令官を務める作戦なんだ」
リルカは、嬉しそうな笑顔でランチのサンドイッチを
手に取り口に運んで行く。
「ところで、お姉ちゃん。さっきはなんであんなに
忙しそうだったの?」
マイカが聞くと、アスカはぷるぷると肩を震わせ
涙ながらに今の状況を話すと、
「あははっ!そうかそうか…”あの人”ならそうなるか♪」
「えっ…なんでよー」
アスカがプスッと顔を膨らませると、
”こっち話だ。気にするな”とリルカは返す。
「でも…いくら作戦まで間が無いとはいっても、
一人じゃ大変だし、ちゃんと休まないとダメだよ〜」
マイカは心配そうにしながら、近くにあった
大きめの鞄をあさると、中が本が出てくる。
「これ…”古の英雄譚”のお話を誰でも読めるように
解読・編集された。今、城下町の人たちに大人気の本を
貸してあげる♪」
「あ、ありがとう」
アスカは受け取った。食事を一通り食べきったリルカは
マイカが渡した本を見て
「それ…あたしも読んだけど、物凄く面白かったぞ!
休憩の合間にでも読んでみろ」
☆
その夜。作戦の円滑な運用のために用意された
ロスウィードとアスカの執務室。
そこで、ひとりアスカは相変わらず残っていたが
「…○○○ラッシュ!」
と、声を出しながらお仕置きボックスの中にあった
ハリセンを逆手に持ち、一心不乱に振り回していた。
リルカとマイカに勧められ、仕事の合間に読むように
言われた”古の英雄譚”の本。それがとても面白く強く惹かれ、
最後まで読んだ結果の状況だった。
剣と盾を扱い戦う戦士のアスカにとって、
英雄譚の主人公やその師匠の技には、魅力があり
新たな戦士としての道を拓けるのではないか?と
思ったための行動だった。
そう自身の背後に…その状況を一番見られたくない人が
居る事に気づくまでは…。
「……アスカ、キミは一体なにをしているのだ?」
「ひゃいッ!?」
ビクッとし、普段よりも高音な声で返事をし
ごごごご…と後ろを振り返ると、そこには
ロスウィードが腰に手を当て呆れた顔で見ていた。
「ここここ…これふぁ、そのッ!」
「落ち着け、ろれつが全然回ってないぞ。」
今日1日の仕事の状況と事情を話すと、
ロスウィードは納得し、そのまま机に座り
日報をまとめる。
「…あのロスウィード…さん。ど、どこから
みてましたか?」
「うん?…俺は”何も見てない”ぞ?…」
言われるとアスカは安堵のため息をつく
「だが、良い”…○○○ラッシュ!”の掛け声だったな」
ロスウィードがすぐに言うと、アスカの顔は恥ずかしさで
びっくりトマトのようにまた真っ赤になった。
その後、突入作戦開始までの間、ロスウィードが
アスカの秘密特訓に付き合う事になったのは、
また別のお話。
続く