これは蒼天のソウラの二次創作になります。執筆者の
独自解釈などが含まれます。そういった関連の事が苦手な方は
注意が必要です。それでも良い方は進んでください。
ー本編ー
何か太いものを振り回すような音が
マイカの耳に届いたが、あらゆる状況が彼女の焦りを
掻き立て…大きなスキとなった。
黒い煙の中でその太いものは彼女の横を捉え、
マイカの全身を、強い衝撃と痛みが駆け巡り
その体は勢いよく宙へと舞い、岩場の袋小路へと
吹き飛ばれされた。
「うぅ……ひぐっ!」
地に伏しながらも、意識がまだあったマイカ。
しかし動けば、全身に痛みが走る。何が起こったのか?
痛みで冷静さを取り戻し振り返る。煙の中…焦りも
あったが、周りは見えていなかった事をマイカは
理解していた。見える範囲で、状況を確認し、
吹き飛ばされた時に落としてしまったのか、近くに
転がっていた自分の杖を発見すると痛みをこらえながら、
体を起こそうとした時
落ちている杖の先、その先に違うものを見つける。
…しかしそれは、ダメージを負ったマイカが
一番見たくなかった”モノ”。そして、煙が晴れなかった
理由を理解した。
「あ……あぁぁ!」
くちばしの先から黒い煙を少しだけ吹き出し、
巨大な体を揺らしながら迫ってくるのは、”ボスエミュー”
だった。経緯を知り、恐怖におののく。
しかしただボスが迫ってくるのならダメージを
受けている状態でも対処方法はあった。
だがマイカの目は、本体ではなく背後。アサシンエミューや
他の同種類の魔物が持つ”トゲ状”の尻尾の方に向けられていた。
ウネウネと動き回り、そのトゲの先からポタポタと緑色の液体が
垂れていた。それだけなく、その液体が垂れた辺りの植物や岩場が
火で何か焼かれるような音を立てて溶けていた。
尻尾の動きは、まるで【刈り取るべき獲物】を
探しているかのようだった。
トゲに刺される事もそうだが、それ以上に、その毒の液体に
触れるだけでも、何かしらの後遺症が残るのではないのかと…
マイカは直感で察した。
ボスエミューはなおも、一歩一歩前に進み
距離を少しずつ確実に詰めていく。
○
「マイカさんは…どこだ!?」
「分からない…この煙が晴れないと…!」
フツキとマージンは、なおも黒い煙の中に居た。
少し先しか見えぬ所から、次々と攻撃が飛んでくる。
敵の位置を把握できない二人は避ける事しか
出来ない状況にあった。
「こいつら…この中で、視界が利いているのか…?」
エミューたちは、フツキが言うように迷いもためらいもなく
煙の中を自由に駆け回り、クチバシや蹴り、尻尾で叩くといった
攻撃を続ける。まるで先に行かせないかのように何度も
何度も邪魔をし続けていた。
○
「こ……っちに、来な…い…で!」
自分を元々狩ろうとしたボスエミューに、
その言葉が届かない事は分かっていたマイカ。
痛みを堪えながら、なんとか立ち上がり杖を拾う。
だが、足元がおぼつかず、それを支えにしなければ
普通に立てない状態にあった。
ボスエミューも、獲物が弱っている事を把握し
終始しならせていた尾を振り上げ、エミュー特有の
高音の鳴き声を上げた。
○
「…なんだ!あの叫びは!」
「まさか!…マイカさんがッ!」
フツキがそういった時、手下のエミューたちが
それぞれ二人に覆い被さるように飛びつき、足で
体を踏み倒した。突然の事で、ほんの少しだけ
うめき声を漏らす。
「クソッ、しまった!」
「これじゃあ…!」
必死にマージンはもがくが、先程の連続攻撃で
息を切らせていた状態では、力が入れられない。
その隣、同じようにもがいていたフツキの
頭の中に突然声が響く。
ーーお前は、何も救えない
ーー我が手下になれ
「!……誰だ!?」
「どうしたんだ!?…フッキー!」
「今、声が…。! …クソッ! うるさい!…俺は
こいつらを狩って、アイツを…! あの子を助けるんだ!」
誰かと話すような言葉遣いに、マージンも戸惑う中
エミュー達の尾がしなりを見せた事に気づく。
「まずい!…尾が動いてる!フッキー!早くこいつらの足を
どかさないと、死ぬぞッ!!聞いているのか!?」
マージンは焦りながら言うが、なおもぶつぶつと
誰かと話しているのフツキの耳には届いていないようだった。
○
「もぅ…だめ…」
支えにしていた杖と一緒にくずれ、その場に座り込むマイカ。
狩られる獲物となった目の前の少女に、ボスエミューは確実に
その尾を突き立てられるように、一歩ずつ迫っていく。
「……私、ここで…。……フツキさん、マージンさん。…ごめんなさい」
瞳を閉じた…
その時 耳に剣を弾くような高音の音色が鳴り響いた。