蒼天のソウラの共同二次創作になります。執筆者の
独自解釈などが含まれます。そういった関連の事が
苦手な方は注意が必要です。それでも良い方は進んでください。
ー本編ー
「着いたよ、お姉ちゃん!」
鬱蒼とした森の奥に拓けた小さな広場。
その向こう側にはこれまた小さな洞穴があり、入り口に
立って少女が手招きをする。
「これは確かに… 立派な秘密基地、ですね」
荷物の中から小さな松明を取り出し、慣れた手つきで
火を灯すと洞穴の中を照らし出す。
成る程。大人のアスカにはやや手狭に感じるが、
子供からしてみれば天井も奥行きも十分な広さだ。
「ここのぜーんぶ、あたしの宝物なんだ!」
両手を広げた少女の背後には、綺麗な色の石や貝殻、
色鮮やかな砂が入った小瓶や古ぼけた地図などが飾られている。
誇らしげにひとつひとつ語って聞かせる少女に付き合って
宝物を眺めていたアスカは洞窟の奥、一際暗くなっている場所に、
更に奥へと続く横穴を見付けた。
「ちょっとだけゴメンね」
きょとんとする少女にそう告げると、手にした松明を奥の暗がりへと向ける。
「あの奥には何かあるのかな?」
一緒になって洞窟の奥を見ていた少女に尋ねてみるが、
「何にもないよ。行き止まり」
少女にそう教えられたものの、やはり自分の目で確認する必要もあるだろう。
松明の油分を染み込ませた布で、剥き出しの岩壁に簡易ランプを設置すると、
アスカは恐る恐る暗闇の中へと踏み出した。
「…何もないですね」
ひょっとしたらこの村の伝承に出て来た壺でも置いてあるのでは…と
期待してみたが、残念ながら“そこにそれは”無かった。
「それじゃ、そろそろ村に戻――
声を響かせ、少女が待つ場所まで引き返そうとしたその時。
聞こえてきたのは、何か重さのあるものが動く音。
手にした松明で音のした方を咄嗟に照らす。
……そこにそれはあった。
ところどころが苔で覆われ、洞窟の天井から垂れ落ちる水分で
変色した歴史を感じさせる古びた壺。
先ほどまではなかったその場所に、その壺は置かれていた。
蓋が大きくずらされた状態で。
「あれ、この場所にこんな壺… さっきまでは… ……壺、まさか!?」
今度こそ剣を抜いた彼女の前に、ゆらり。と現れたのは小さな人影。
元々温度の低い洞窟内を、身震いしそうな寒気が満たしてゆく。
耳まで裂けた口に、ニタァ…と笑みを浮かべ、
先ほどまで話していたウェディの少女だった者は、
身の毛もよだつ声恐ろしい声でこう告げる。
『ね、ねねねねねぇ。お、おおおお、おねえーちゃん?
ちゃ、ちゃん?ちゃん? あた、あた、アタシアタシシシシシ
アタシとアソボウヨオオオオオ』
☆
その日も朝から穏やかな天気だった。
簡素な朝食を済ませ、村の外へと調査に向かうアスカを門の前で見送る。
頬を撫でる心地良い潮風に、任務でなければ海辺で釣り糸でも垂らして
一日過ごしたいところだ…などと考えながら、大きな欠伸と共に身体を伸ばす。
見る者が変われば新たな発見があるかもしれませんから――と、
アスカから提案された昨日とは逆の役割での調査。
動き始めた村の中を、特に当ても無くぶらぶらと歩き回る。
日が昇る前に漁に出たのだろう。既に男たちの姿は見当たらず、
それぞれの家の軒先では女たちが洗濯物を干したり、食材の仕込みに
精を出している。
恐らくはこれがこの村の日常。実に長閑である。
目が合えば気さくに挨拶してくれる住民たち。時には挨拶どころか、
他愛もない世間話をされることもあった。
……と言うか、挨拶だけで済まないことの方が多かった。
ー漁長の漁船がそろそろ新しいものに替え時だの、
ー消息を絶った者の中にはご近所の娘さんがいただの、
ー病弱だった村長の孫娘がここのところ元気になっただの、
ー今年の魚は脂が乗っていて美味しいだのと。
その一つ一つに相槌を打ち、共感の言葉を返し、大袈裟に驚いて見せる。
そんなことを続けながら歩き回っているうちに、太陽はすっかり西の空へと
傾いていた。
つづく