蒼天のソウラの共同二次創作になります。執筆者の
独自解釈などが含まれます。そういった関連の事が
苦手な方は注意が必要です。それでも良い方は進んでください。
ー本編ー
月明かりに照らされたウェディの蒼い肌を一層青褪めさせると、
アスカはその場で深く項垂れる。
だが、彼女が後悔に割く為の時間など、一分たりとも与えられる
ことはなかった。
強い力が二の腕を引き上げ、彼女を無理矢理に砂の上へと立たせる。
「謝罪も後悔もべそをかくのも後にしろ。愚痴だろうが何だろうが
城に戻ったらいくらでも付き合ってやる。……標的を追うぞ」
決して有無を言わせない畳み掛けるような言葉に
ただ頷くしかなかったアスカだが、視界の端にぼんやりと光を
放つものを捉え、思わず口に出してしまう。
「と、ところでロスウィード、さん。その左眼は……」
そう言えば眼帯を戻していなかったな。と思い出し、
「女王陛下以外には話していない。君も他言無用だ」
上手い言い訳が思い付かなかったのだろう。特に誤魔化すでも
なく短くそれだけ伝えて歩き始める。
“女王陛下以外には話していない”即ち、
国家機密の可能性があるから軽々しく他人に話すなよ?と、
言外に釘を刺した上で。
事情は分からないが何かとんでもないものを
見てしまったのではないか。今度は慌てて頷き返すと、
アスカもその後を追うのだった。
先ほどサキュバスの飛び去った方角――熱帯の木々が覆い繁る、
月の光も届かぬ深い闇へと向けて。
☆
月明かりすら届かぬ、深くジメジメとした熱帯雨林の奥。
鬱蒼と覆い茂った熱帯の植物に囲まれた小屋の中。
肩口を押さえ、小刻みに震えながら蹲る魔物の影。
ロスウィードの銃撃で吹き飛ばされた腕の痛みに耐えながら、
自身が依り代としている少女をどうにか小屋まで運び入れた
サキュバスの双眸が、つい先刻まで腕があった場所を忌々し気に
睨み付ける。
「ウガ…がッ…クソッ…くそっ!…あの男…ヨクモアタシの
腕ヲ吹き飛バシて、必ず小娘モアイツモ喰っテやる!」
一向に治まる様子のない痛みと、沸々と腹の底から
込み上げる怒りに任せて近くにあったボロ椅子を乱暴に蹴り飛ばす。
何か重いものを引き摺って歩く音が小屋の外から
聞こえてきたのは、その直後のことだった。
痛みにその美貌を歪めながらも、サキュバスはぺろりと
唇を舐めてから妖艶な笑みを浮かべる。
「どうやら…アタシに”でぃなー”ヲ運んで来てくれたようネ」
ぽたぽたと傷口から滴る血液を気にも留めず、“でぃなー”を
どのように食べるかをあれこれ思い描きながら、魔物は小屋の外へと
歩を進める。
予想していた通りの光景に先ほどまでの苛立ちは吹き飛び、
三日月の形に口角を吊り上げると、身体に纏わり付くような
粘質の声音でその人影を招き入れた。
暗闇の中、金属の靴で下生えを踏み締め、一歩。
また一歩と小屋へと近付いて来るのは鎖帷子に身を包んだ
ウェディの女剣士。
夜目を凝らして窺い見れば鎖帷子はあちこちが傷み、
取り付けられた金属板はひしゃげ、彼女の全身は泥と砂に塗れている。
そして。女剣士の手が引き摺っているのは、ぐったりとして
ピクリとも動かない銀髪の男。得体の知れぬ武器でサキュバスの腕を
落とした男に他ならない。
女剣士の傷や装備品の汚れや損傷具合を見れば、
彼女が動かなくなったこの男と
どれほどの激戦を繰り広げたのかは想像に容易い。
「確か……アスカとか言ったワネ。ゴクロウさま…
アタシの願イ通リ…サイコーの”でぃなー”をちゃぁんと
持ッテこれたコト、褒メてアゲルワ」
まだ息があるのか、それとも既に事切れているのか。
俯せの状態で襟を握られ、ぐったりとしたまま動かない男――
ロスウィードの姿を見て、サキュバスは満足げに嗤う。
「アハハハ、よく分からない攻撃ヲシテキタ時は驚いたケド
所詮は”人間”。勝テル訳ナカッタノヨ。……さて、ソレを渡シテ
貰えるかしら?」
サキュバスから指示を受けると、アスカは言われるがままに
無言でロスウィードを引き摺って一歩踏み出し……
鼻をついた異質な香りに、サキュバスはハッとして周囲を見渡す。
暗闇の中には、操り人形の如く何処かぎこちない足取りで
獲物を引き摺る女剣士とぐったりとした獲物以外に人と呼べるものは
存在しない。
だが、魔物特有の鋭い嗅覚と直感は、何かおかしいと警鐘を鳴らした。
魔物特有の鋭い嗅覚と直感は、何かおかしいと警鐘を鳴らした。
間近に迫った女剣士の手から獲物を受け取るべきか、
それとも少し様子を見るべきか。一瞬の迷いに隙が生じた……
続く