これは蒼天のソウラの共同二次創作になります。執筆者の
独自解釈などが含まれます。そういった関連の事が苦手な方は
注意が必要です。それでも良い方は進んでください。
ー本編ー
ロスウィードはここから先の自身の行動について方針を定める。
「バンデ・ヒルフェ君、警戒を怠るなよ? 何か仕掛けて来るぞ」
「は、はいっ!!」
筋肉の大きく盛り上がった片腕を頭上に掲げ、魔物特有の鋭い犬歯を
剥き出しにするとサキュバスが凶暴な笑みを浮かべた。
「オマエラ二匹トモ、丸焼キニシテ喰ラッテヤル!」
頭上を覆う熱帯の樹木を焦がして二人を目掛けて降り注いだのは、
不気味な赤黒い稲妻。
「これは…!昔の伝記にあった…”古の呪文”!?」
穿たれた衝撃で砕かれた地面から大量の土煙が巻き上げられる中、
アスカが驚愕の声を上げる。
そんな状況で、土煙を境に二人の剣士が咄嗟に
左右へと分かれて回避したことは、サキュバスにとって
実に好都合だった。彼女が狙うのは各個撃破。
爛々と紅に光る魔物の眼が一人目の影を捉える。
「マズハ、オ前ダァァァ!!」
強力な変身の対価として、制限されてしまった飛行能力。
その体躯にはあまりに不釣り合いな背中の小さい翼を羽搏かせ、
一直線にロスウィード目掛けて襲い掛かり……
「……へ?」
脇腹に走った激痛に、掴み掛ることも、殴り飛ばすことも
忘れてサキュバスが思わず視線を落とす。
鋼のように硬化されている筈の腹筋に深々と突き立てられていたのは、
少し大きい街であれば大抵の武器屋で取り扱っているような片手長剣。
致命傷にこそならないものの、込み上げた痛みに傷口を押さえ、
魔物が悲痛な叫び声を上げた。
「どうしたんです!? ろ、ロスウィードさん! 大丈夫ですか!?」
「ナッ!? 貴様!一体何ヲ……!? オイ、ヤ、ヤメ――
暗闇と未だ立ち込める土煙で視界の悪い中、頼りにするのは
少し離れた位置から聞こえた新米兵士の声。
レミーラ塗料でぼんやりと光るサキュバスの腹部を
ロスウィードは渾身の力を込めて両手で押し上げ、
声のした方へと魔物の身体を思い切り突き飛ばしてから叫ぶ。
「そっちに行ったぞバンデ・ヒルフェ君! こちらで
アシストするから君が倒せ!」
「え!? ええええええええええ!?ちょっとおおおおお!?」
突如変化した相手の容姿、古の呪文に驚き、困惑している状況に
置かれている中で、共に戦う上官からの意図の読めない突発的な指示。
しかし思案する時間も許さないという中で、爆煙の中から
蛍光塗料で濡れ、淡く光を帯びているサキュバスが飛び出してくる。
「でっ……!」
――出来ません!無理です!――
思わず喉まで出掛かった言葉を飲み込み……
一瞬の迷いを経て短く息を吸い込むと、半ば自棄になりながらも
アスカは声を張り上げる。
「りょ、りょ、了解しました!」
上官は、一体何を考えて新米の自分にそのような指示を出したのか。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
了解の意を示した以上は、出来る出来ないに関わらず
やらねばなるまい。
湧いて出た疑問を意識の外へと追いやると、
汗ばむ手の平で剣の柄を握り直し、ロスウィードの指示に
従う事を優先した。
「イイ度胸だ小娘! 男はアトだッ!マズは……アタシの得意とする技を
コケにシタ、オマエカラだぁぁ!」
視界に割り込んで来た女剣士。自身の最も得意とする魅了から逃れ、
且つ立ちはだかろうとするその姿に一層の苛立ちを覚え、
サキュバスも標的を改める。
激しい怒りを燃やし、魔物は肥大化した剛腕を高く振り上げると、
眼前のアスカ目掛けて力任せに叩き付けた。
金属の擦れる音。
硬い岩をも砕く一撃が、下草に覆われた地面を放射状に粉砕してしまうが……
手にした盾で軌道を僅かに逸らしたアスカは、見事な身のこなしで敵の強打の回避に成功する。
そして、回避から一転。
恐いという気持ちに打ち勝ち、踏み止まった脚の重心を
前方へと移動させると、しなやかな身体のバネを活かして剣士は
一気に敵の懐へと踏み込んだ。
狙ったのは、強力な攻撃を放つ相手の腕。突き出された
レイピアは狙い違わずサキュバスの腕へと突き刺さったものの、
どうにも手応えが浅い。
「……硬い!!」
攻撃を阻んだのは強靭な筋繊維。人間のものとは
比べものにならないほど発達した筋肉が刺突剣の一撃を弾いたのだ。
「ドウシタ?…もっとアタシを楽しませなさい…よッ!!」
続く