これは蒼天のソウラの共同二次創作になります。執筆者の
独自解釈などが含まれます。そういった関連の事が苦手な方は
注意が必要です。それでも良い方は進んでください。
ー本編ー
「ドウシタ?…もっとアタシを楽しませなさい…よッ!!」
突き立てられたレイピアをものともせず。サキュバスは再び剛腕を振り翳し、
先ほどまでの美貌の影も見えない、耳まで大きく裂けた口を開くと
アスカ目掛けて齧り付こうとする。
「イタダキマースッ!」
聞こえたのは、硬質の物同士がぶつかる音。齧られたくない一心で
アスカの構えた盾と、サキュバスの犬歯が正面から接触した音だ。
「私から食べる気ですか!? 本っ当に……お行儀悪いですよ!」
噛み付きを盾で受け止めたウェディの華奢な腕が、
魔物の剛腕を絡め取った。そして……
「っ!! こ、っのおおおぉぉぉ!!」
突進して来た相手の勢いをそのまま利用し、気合と共に腰を
軸に身を捻るとアスカはサキュバスの巨体を宙へと投げ飛ばす。
「クソがァ! ナカナカやるじゃないカ…… 忌々シイ小娘メ!」
投げ飛ばされ……その巨体が空中でくるりと反転した。
見れば、体躯の割に小振りな背中の翼を必死にはためかせ、
どうにか体勢を整えたらしい。
戦闘で踏み荒らされた地面の上に、サキュバスがずしりと降り立った。
苦悶に表情を歪めると。腕に力を込め、自身の腹に
突き立てられたままになっていた片手剣を迷わず抜いて投げ棄てる。
雷で巻き上げられた土煙が次第に晴れ……暗闇の中、
アスカとロスウィードは互いの位置関係を把握できる
程度の状態にはなった。
「大事ないな? 武器を構えて呼吸を整えろ」
「は、はい……!」
手短にやり取りを交わす二人の軍人。その様子に、
サキュバスが苛立ちを見せる。本来であればこの二人のどちらかは、
今頃空腹を満たす為の餌になっていた筈なのに……と。
剣を引き抜いた跡の傷口を片手で押さえ、べっとりと付着した
己の血液を長い舌で舐め上げる。
「アァ…… 片方はサクッと喰い殺スつもりダッタのに……」
魔物の剛腕から筋肉の軋む音が聞こえた。
「……腕の強打に注意しつつ腹を狙え。君の動きなら問題ない」
土煙で視界が悪い上、闇の中での交戦だったにも関わらず。
この上官は、いつの間に自分の動きを観察していたのだろう。
不思議に思ってチラリとロスウィードの顔を覗き見たが、
残念ながらその表情まで窺い知ることは、アスカには叶わなかった。
「わかりました。やってみます」
細剣の柄を握り締め、ラウンドシールドを身体の前で構え直す。
すうっと息を吸い込む。
「――行きます!」
塗料でぼんやりと光るサキュバス目掛けて、正面に盾を突き出した状態で
強く地を蹴り大きく踏み出した。
「見くビルナ! くッダらナイあどばいすナンカデ勝テルと思っタノカい!?」
一瞬だけ構えを見せた剛腕はフェイント。一直線に踏み込んで来た
アスカに対して、サキュバスが放ったのは腕に負けず劣らず肥大した
脚による鋭い回し蹴り。
ごいん! と、闇の中聞こえた金属音に、突っ込んで来るとは
馬鹿な娘だと笑みを浮かべる。しかしその直後、捉えたにしては
手応えが弱いことに気付いて……
「盾だケダとぉ!?」
放たれた蹴りが捉えたのは、間合いに入る寸前で
アスカが手放し宙に残った盾のみ。
と、すれば肝心のアスカの姿は。
身を沈め、地を這うような低空からの突き。
「んナッ!?」
狙い澄まされた刺突剣による一撃が脇腹を掠め、
サキュバスは大きく後方へと飛び退くが、まるで
その動きを予測していたかのように、懐にぴったりと
入り込んだままのアスカを振り切れずにいた。
「逃しませんよ!」
「ならバお前ノその首……切り裂いテやるッ!!」
激昂し、真っ赤に発光した爪を振り翳すとアスカの喉元へと
突き立てようとして。
「そんなことをされては困る」
間近で聞こえた男の声に、背筋が凍り付いた。
自身の直感を頼りに、突き出そうとした腕を咄嗟に引き戻す。
今しがたまで腕があった場所を通過したのは、死角から
繰り出された刺突剣とは別の斬撃。
「……イ、一体ドコか……ら!?」
続く