※この物語は蒼天のソウラの二次創作です。今回のお話は
筆者の独自の解釈や加筆があります。
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「聖獣殿。まさかそんな”真実”を伝えるために、我々を
呼んだのではあるまいな?」
マリクのその問いにダイキリンは、
「うむ。無論、そんな理由でワシがお主らを呼んだりはせぬ
そう…ワシは見つけた魔公王の愛馬に助言を送ったのだ」
☆
〜500年前の平原〜
大地を焼いたレイダメテスが落ち、思いがすれ違ってしまった哀しき戦争が
終わってから、時が少し経った頃のウェナ諸島。緑が少しずつ力を取り戻し
始めていき、焼かれた大地が再生しはじめていた。
そんな頃。ある丘の上から、1頭の黒い馬が野をかける
自分とは体毛が違う馬たちを見下ろしていた。
それは魔公王イシュラースが最後を迎える直前に
一緒に居た黒い馬だった。激しい戦場を共に駆けた主に、
アストルティアの野に放たれてから、どれくらい経ったのだろうか、
本能のままに大地を駆け抜け鍛え上げられた力強い脚力で風を切る。
しかしその背に、手綱を取る主はもう居ない。自分の行き先を
共に行く主はもう居ない。ここで自分はたったひとり。
この大地で静かに朽ち果てて行くしか無いのだろうかと悟り、
黒い馬は立ち止まっていた。
「……ようやく見つけたぞ。まったくウェナ諸島のそこら中を
自由に走りまわりおって元気なヤツだ」
声をかけられて振り返るとそこには、イシュラースと剣を交えた
シャクラが騎乗していた威風堂々とした佇まいの聖獣ダイキリンが居た。
「アストルティアの大地はどうだった?…お主の生まれ育った
魔界とはどうだ?」
隣まで歩いてきたダイキリンに尋ねられると、目の前で
踊るように蹄を鳴らし、嬉しそうに鳴く。
「そうか♪そうか♪」
そういうとダイキリンも、同じように丘の下で
駆け巡る野生の馬たちを見る。そして自身の隣で
静かに見つめる寂しげ視線を感じ
「お主…これからどうするべきか迷走しておるだろう?」
自分の心中を射抜くその言葉を聞いて、ハッと驚いた後
そのまま俯き、落ち込むように座り込んでしまう。
予見していた事が当たったダイキリンは続ける
「やはりか…いきなりこんな広い世界に放り出されてしまっては
仕方のない事…。ならば、ひとつワシの助言を聞いていかないかな?」
意外な助け舟に、それはいったいなんだ?と言わんばかりに、
ダイキリンの方をスッと向く黒い馬。期待に満ちた視線受け、
それに答えるように、話し始める。
「いつかは分からぬ遠い時代…恐らくだが、お主の力が再び必要となる時が
来る。それまでの間、後の世。子々孫々に渡り、お前と共にあった者達の名を
歴史を、そして何よりその血統を来たる未来に繋いでみてはどうかな?」
ーーーー遠い時代…それは今を生きる自分が見れるものかは分からない。
しかし主は未来へ希望をご子息様に託した。もしかしたら
その力になる事は出来るかもしれない。だが果たしてそんな事が
出来るのだろうか?…いや、主がそうしたのなら!
「これは並大抵の事では無い。無理強いはせ…」
ダイキリンが何を言い終わる前に、黒い馬は意を決したように
立ち上がった。そして、丘の下の野を駆ける野生の馬たちの元へ、
全力疾走していった。ダイキリンはその背を見て
「そうか…お主も”覚悟”を決めたのだな……頑張るのだぞ!
ワシはお主の行く末を…お主がこれから時間をかけて繋ぐ子孫を…
来たるその時まで見守ってゆくぞ」
静かにその場を去っていった。
〜続く〜