私は『マイカ=バンデ・ヒルフェ』
たった一人でアストルティアの世界を旅する
かつては”踊る魔術師(タンツェンウィザード)”と
人に呼ばれた事もある魔法使いだ。
私は…世界の歴史や文化をより深く知るため、
自分の魔法を高めるために
ーーー【枠を超えた】
背格好は、かつての出会った事のあるニコロイ王様やヒメア様に
近いくらいに成長したけど、心は”あの頃”から変わらない。
私は師匠が持っていた本に載っていた”とある魔法の儀式”を
自分にかけ、永い時を生き渡り歩く存在になった。
もちろん辞める事も出来た。姉たちにも止められた。
二人にも、何度も事情と覚悟を伝え、最後に三人で
絶対に忘れてはいけない約束をして、私は”やる”と決めた。
時間がないと出来ない事もたくさんあったから
とにかく時間も欲しかった。
そうして時は、1ヶ月・半年・1年・10年・30年
そして100年…と気が遠くなるような時間が過ぎていった。
一番辛かったのは、家族…姉妹との永遠の別れ。
未来永劫忘れないように、二人から武器を形見にもらった。
儀式で強くなった自分の体を十全に活かして、出来る範囲で
二人の技術や技を継承した。
そうして旅を続けて気がついたら、バンデクス島にあった家は消え
別の何かに。『バンデ・ヒルフェ』って言う名前や意味も
私だけが持つものになった。
研究を続けながら冒険者を続けていたから、その人間関係は
消えなかったけど、家族は…もう居ないんだ。
そうか…これが私が好奇心と向上心と引き換えた”代償”なんだ。
元は寂しがり屋の自分が、なんて言う事しちゃったんだろう。
あぁ…戻れるなら、戻りたい。でも
「お姉ちゃん達と約束したんだ。…………って!」
★
✧
☆
「イヤァァァ!!」
バンデクス島にある屋敷に、深夜にもかかわらず耳に突き刺さるような
少女の叫びが轟く。その声に隣の部屋や下の階から、急ぐ足音がドタドタが
声の主の元へやって来た。
「どうしたぁ!?」
リルカとアスカが扉を強く開け、やって来た。そこには
ベットのシーツを蹴り上げ、その上で身を震わせボロボロと
大粒の涙を流しているマイカの姿があった。
「な、なんで泣いているの?」
「凄く…怖い夢見た。お姉ちゃん達が先に逝って…私が
ひとりぼっちになる夢」
突拍子もない事を言い出すマイカに姉の二人は首を傾げて
理解が出来てない様子だった。すると後ろから
「あらあら…それはとても怖い夢を見たのね…」
マーテが優しい言葉をかけながら、部屋へ入ってきて
泣き続けるマイカの横に座り、その肩を優しく触れる。
「じゃあ覚えている範囲で良いわ。その夢の中身、
お養母さんたちに聞かせてくれる?」
マーテが言うと、マイカは自分が見た夢をゆっくりと
話していく。そばに居た三人は、その話をウンウンと
聞きながら、なだめるように安心できるように気遣った。
そうしてしばらくすると、徐々に落ち着いて来たのか
話す言葉が途切れ途切れになっていき、そしてマイカは
小さな寝息を立てながら、マーテにもたれかかり眠った。
「…眠っちゃった」
「安心できたんだな…」
「シィー…それじゃあマイカが起きないように、私と一緒に
ゆぅーくりと部屋を出ていきましょう」
☆
養母と姉二人は、妹に急に起こされたのもあってか
すぐには寝られずに一階のダイニングに居た。
二階から降りてきたタイミングで同じく起きていた
メイド長のユウナが温かい牛乳を人数分用意していた。
「夜遅くにありがとう…ユウナさん」
「いえいえ、マイカお嬢様が安心して寝付けてよかったです」
「さっきの話さ…荒唐無稽だったけど、やけに現実味がある話だった」
「うん、確かに一人ぼっちになるのはイヤ」
そうして話していると、マーテは
「私が知っている方に、永い時を生きている賢者様が居るの」
「え…それってまさか」
「そう、永い時を生きる”何らかの手段や魔法”はこの世に存在している。
だから、あなた達の妹が”そうなる可能性がゼロ”では無いの、忘れないで」
「……そんな時、来て欲しく無いかな。……って、え?
どうしたのリルカお姉ちゃん」
アスカが言った時、リルカは何者かの気配を感じたのか、外へと
足早に出ていく。屋敷から外へ出ると、それはまるで最初から
なかったように消えていた。
「どうしたのリルカ?」
「ううん、誰かに家を覗かれている気がしたんだ」
「あら怖い…明日、衛兵さんに頼んで屋敷周辺の警備お願いしようかな?」
☆
ーーーさすがお姉ちゃん、危ない危ない。でもこの”此処”は
大丈夫そうだね。さて、次の”世界”へ行こうかな?
同じにならないでね?ーー”幼い私”
〜おしまい〜