コロシアム――
享楽と錬金の島ラッカランの中でも、腕自慢の冒険者たちが集まる闘技場。
かつてここには、旅芸人達の嘆きがあった。
長く閉鎖されていたコロシアムがオープンした当初、旅芸人はボケから繰り出すテンションの乗ったバギクロスで終盤の一発逆転を狙える職業だった。
だがコロシアムの正式オープンに伴うルール改正により、
旅芸人はその席を追われていった。
今でこそ“戦いのビート”により火力補助職として認められてはいるが、
当時、バイキルトの使えない旅芸人は
火力補助としては及第点以下という評価を下されていた。
さらには猛威を振るう武闘家とのバランスを考慮し、
試合中のテンションの上昇には制限が掛けられる。
それは旅芸人のボケもまた例外ではなく、
ボケからのバギクロスによる逆転の目は薄れた。
曲芸スキルにHPパッシブがないために、HPはまもの使いやどうぐ使いと比べても格段に低い。
そして回復魔力も他職のパッシブがないために、ザオで蘇生が確定する280を確保することが困難。だがそれを求めれば、状態異常への耐性がなくなってしまう……!
いやそもそも、HP1で蘇生するぐらいなら僧侶にザオラルさせろ、と陰口さえ叩かれた。
そして何より。
旅芸人の必殺技、アクロバットスター。
自らの回避率を飛躍的に上げ、カウンター攻撃を可能とする、まさに攻防一体の技である。
だが、この回避は相手が特技を使用する場合にはほとんど効力を発揮せず、カウンターもまた発動しない。
つまりバトルマスターが使用する“天下無双”の6回連続攻撃と致命的に相性が悪く、捕捉されたらほぼ生存が不可能な状態だった。
旅芸人は、長くコロシアムにおいて冬の時代を過ごしたのだった。
「お前は、一体何者なんだ…?」
そう問いかける。
悪魔道化師ゲイザー。
そう名乗った男は、旅芸人なのか。バトルマスターなのか。
あるいは…単にその両方を使える、魔物なだけなのか…。
「オレは……」
奴の動きが、止まった。
棍を構えたままの僕の姿を見て、混乱している。
「オレはぁぁぁーーーーっ!」
無茶苦茶に武器を振り回す。
僕はそれを見切り、攻撃を叩き込んでいく。
ダメージは累積していた。奴の体力は半分以下にまで減っている。
そのとき道化師は、ひらりと宙に舞い、思いも寄らない動きを見せた。
「ハッスルダンス……!?」
それは正真正銘、旅芸人であることの証明。
自らとその周囲を癒やす、旅芸人が誇りとするもの。
そのハッスルダンスを、奴は今、混乱の中で踊っている。
「悪魔道化師ゲイザー。やはりお前は、旅芸人なのか……!?」
(第5章へ続く)
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