「ホーリン、じつはよお……」
ゲイザーとの戦いに赴く直前、ポルファン師匠は語ってくれた。
ポルファン師匠が、ゲイザーと共に闇芸人ルルルリーチに戦いを挑み、
そして、ゲイザーの母が病気で亡くなったことを。
「母親を亡くして、ゲイザーは怒った。
芸は人を救うって言ったのに……。
しょせん芸なんか無力だって、言ってなあ。」
師匠は悲しそうに、遠い過去に思いをはせる。
「オイラじゃ、あいつの心は救えなかったぜえ。
だがなあ……おめえさんなら……。」
ポルファン師匠は僕に託したのだ。
ゲイザーの心を、“芸”で救うことを。
(懐かしい…………)
戦いの最中だというのに、僕は攻撃の手を止め、
ゲイザーのキラージャグリングに魅入られていた。
水流の構えがまだ残る体は、反応してボールを弾き落としていく。
いや、当たったジャグリングボールも、
全くといっていいほどダメージを与えることはなかった。
でも……これは、
これこそが、
かつて、僕が憧れた旅芸人のスキルじゃなかったか……!
――キラージャグリング。
旅芸人の曲芸スキル68ポイントで習得できる専用特技。
通常攻撃の半分程度のダメージのジャグリングボールを
6回連続で敵にぶつけ、ダメージと同時に混乱をもたらす。
ブーメランもバトルマスターもなかった時代の、
最多段攻撃。
タップダンスで敵の攻撃を回避し、
ハッスルダンスで自分と周囲を癒やし、
そして、
「キラージャグリングで敵を攻撃する……!」
それが、冒険者を始めたばかりの旅芸人たちが
思い描いた理想の姿ではなかったのか……。
もう、ゲイザーの体力は残り少ない。
ほんの少し突いてやれば倒れてもおかしくない。
なのに、そのジャグリングは、
弱々しい威力とは裏腹に、
「なんて……格好いいんだ……」
ポルファン師匠は言っていた。
「なはは。あいつは、芸を愛する男なんだなあ。」
――ゲイザーは、“芸を忘れた男”と呼ばれている。
「戦闘中に曲芸スキルの“ボケ”を決めて
あいつを倒し、正気に戻してくれねえかい?」
――違う。忘れてなんかいない。
母親の死をきっかけに旅芸人の無力さに打ちひしがれ、
忘れようとしていただけだ。
たとえバトルマスターや踊り子の真似をしていたとしても……
最後の最後に、ゲイザーが選んだのは、
曲芸スキル、キラージャグリングだったんだ……!
「ゲイザー! 旅芸人としての意地は、確かに見せてもらったぞ!」
ミドルレンジから攻撃できるキラージャグリング。
その利点を使い、パラディンや戦士が敵を押しながら、
距離を置いて攻撃もできる特技だが、
僕はあえて、その距離を捨てて、
「キラージャグリング!」
「キラージャグリング!」
クロスレンジでの、同時ジャグリング。
乱れ飛ぶジャグボール。
舞い散る星のきらめき。
6発ずつの連続攻撃の後で、ゲイザーの体がぐらりと傾き……
……ついに、倒れた。
悪魔道化師ゲイザー、討伐。
(第13章へ続く)
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