“それでも、あなたは旅芸人が好きでいられますか?”
――オルフェアの空は、今日も青い。
悪魔道化師――、いや兄弟子である旅芸人ゲイザーとの決着から一年が過ぎようとしていた。
ナドラガンド、水の領界での冒険にも一区切りがつき、
嵐の領界が開放されるのを待っていたある日のこと、
僕は旅芸人の師匠、ポルファンの稽古場を訪れていた……。
「ポルファン師匠、話とは?」
「メギラザの洞窟に、ものすごく強い魔物が現れたって話を知ってるかなあ?」
そういえば……僕は思い出していた。
あの兄弟子ゲイザーとの戦い。
彼は口にしていた。闇芸人の名を……その名は……
「たぶん、ルルルリーチだなあ」
この世に、生きる希望をもたらす芸など不要!
旅芸人を抹殺し、世界を絶望で満たそう!
それがヤツの主張であり、討伐に向かった冒険者達を次々と返り討ちにしているのだという。
僕はメギストリスの都から一路、メギラザの洞窟に向かった。
そういえば古い昔……そう、あれはレンダーシアが封印されていた、僕がまだ未熟な冒険者だった頃だ。
メギラザって……ベギラマに似てるよね。
かつて誰もが、そんな風に思わなかっただろうか。
かつて勇者が使用し、しかし、いつしか忘れられていった遺失呪文……
旅芸人でギラとか使えないかな?
バギムーチョはスーパースターにものになっちゃったしさ……
でも、発見されたその呪文は――
「いやいや、今はそんなことを思い出している場合じゃない」
今や洞窟のような悪路でも走破できるようになったドルボードを駆りながら、僕は洞窟の最奥に向かった。
そして、そこに……一匹の魔物がいた。
「フォッフォッフォ……感じます。
私の弟弟子、ポルファンと同じオーラを」
こいつが……ポルファン師匠の兄弟子……。
僕の兄弟子がゲイザーだったように、
ポルファン師匠にとっては、こいつがそうだったのか。
「あなたはポルファンの弟子ですね。
役立たずのゲイザーよりお強いようで。
私、好きですよ。強い方が……」
「でもね、残念です。私、嫌いなんですよ。
くだらん芸をする旅芸人っていうのがね……。
なんと言いますかね。受け付けないんですよ。
もうね、好き嫌いの問題ではないです……。
生理的にダメ。つまらん芸とかナンセンス。
あれで笑える奴の神経が理解できない……。
もうね、ホント世の中どうかしてますよ。
どいつもこいつも、つまらん芸で笑ってるのに……
私のセンスが通用しないのは狂ってますね」
……違う。
狂ってるのはこいつだ。
こいつは誰の言葉も聞いていない。
一方的に話しては自己完結し、勝手な動機で旅芸人たちを襲っている。
恨みや憎しみ、無力感を糧に悪を為したゲイザー。
彼はひたすら苦しみ、あがいて、どうしようもなく魔物に堕ちた。
だが……だが、こいつは……!
「私、好きなんですよ。命をかけた戦いが。
芸も似たようなものですよね?
フォッフォッフォ。さあ、楽しみましょう!」
ルルルリーチは、手下の魔物達を率いて襲いかかってくる!
(第2章に続く)
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