「これは“ぶきみな光”……!?」
ルルルリーチの両目から放たれたのは、魔法使いの“まほう”38ポイントで取得できる、相手の呪文耐性をダウンさせる特技。
それだけのはず。
……なのに。
「なんだ、胸が痛む……!」
「その痛みこそが闇芸人の根源。
旅芸人たちがずっと抱え続けた“絶望”ですよ」
「なに……?」
「旅芸人は物理向け。魔法使いを中心とするパーティとは相容れないと言われていました」
「……? 今だってそうじゃないのか?」
「いいえ、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、旅芸人と魔法使いは共存できたのです。
……短剣による状態異常確率アップ。それによって“ぶきみな光”が格段に入りやすくなった。僧侶が危険を冒して使う必要もなくなった。プレートインパクト。この特技が普及するまでは」
「それは……」
「こいつがいけない。可能性を殺してしまった。なぜなら敵を押しとどめておくパラディンが、呪文耐性ダウンの特技を使えるのです。それも2段階同時に……。
もはや旅芸人がぶきみな光を使う必要など、どこにもありません」
「だから何だ、ぶきみな光はもともと旅芸人の特技じゃない。
旅芸人を否定する理由にはならない!」
「フォッフォッフォ……なるほどなるほど。
では、こちらはどうでしょうね?」
「―― バ ギ ク ロ ス !」
真空の刃が僕の体を切り裂いていく。
ダメージは60ほど。
大した傷じゃない。無視できる程度だ。
なのに…………
「ぐああああっ……!」
なんだ、この痛みは……!
体じゃない。
ココロが、悲鳴を上げている……!?
「お分かりですか? ぶきみなひかりが入ってなお、バギクロスはこの程度でしかない。
まさにこれ、“ バ ギ ワ ロ ス ”」
ルルルリーチはこぶしを握る。
「では他の職業は?
魔法使いはメラガイアーとマヒャデドス。
賢者はイオグランデとドルマドン。
レンジャーにはジバルンバ。
魔法戦士にマダンテ。
スーパースターにはバギムーチョ。
そして、踊り子にはギラグレイド……」
ガンッ!!
ルルルリーチが地面を殴りつける。
「攻撃呪文を使える職業の中で……旅芸人だけが。
“旅芸人だけが”!!
……与えられなかったのですよ。最上級の攻撃呪文を!」
「そ、それは……」
「では攻撃呪文以外のスキルは?
戦士、バトルマスター、武闘家、盗賊、パラディン、まもの使い、占い師。彼らは皆それぞれに役割を持ちいずれも強い職業ですよ。しかし旅芸人はそうではない。職業としての強力な特技を、持っていない」
「ぐっ……ぐうっ!?」
胸の痛みが増す。
僕はそれに抗い、必死に叫ぶ。
「た、旅芸人にはサブヒーラーとしての役割もある!
最近は超ハッスルダンスも普及して――」
「ナーーンセンッス!そもそも回復が不足するのなら、旅芸人など入れずに僧侶か賢者を追加すればいい! できなければ世界樹のしずくを使えばいい。わざわざ旅芸人を入れる意味はありますか? ナッッシング!!」
「旅芸人にはエンドオブシーンもある! 範囲の状態異常を――」
「回復できる状態異常が精神系しかない!
プラズマリムーバーのほうがもっと上!
そもそも耐性をつけてくるのはマナー! 不要!」
「旅芸人は攻撃だって……」
「言わずもがな! 旅芸人の単発最強攻撃である奥義・棍閃殺。
テンションがなければ4桁のダメージにすら届かない!」
「蘇生だって……」
「“コレ”を見ても同じことは言えますかね?」
「世界樹の……葉ァーーーーッ!」
チギーが復活する。
もちろんすぐさま氷結らんげきで落とす。
ルルルリーチはニヤニヤと見ているだけだ。
「かつて旅芸人は、ザオしか使えませんでしたね?
旅芸人を入れるくらいなら魔法戦士を入れて葉っぱを使う。
そう言われた時代すらあった」
「でも今はザオラルだって――」
「それで聖女発動ラインをクリアするのに回復魔力がいくつ必要です?
もうね、とても現実的とは思えません。
どいつもこいつも、あんな惨めな蘇生呪文で、サブヒーラー面をしていられる……。
まったく旅芸人とは愚かしい」
「た……旅芸人には」
ダメだ……。
これを否定されたら僕は……旅芸人は。
「旅芸人には、戦いのビートがある!
旅芸人だけの唯一無二の力だっ!」
「ならばその幻想、私が打ち壊して差し上げましょう!
いいですか?」
「戦いのビートは、まもなく死にます」
「え……?」
(第4章に続く)
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