――旅芸人死すべし。
確かに旅芸人には何もできない。
攻撃も、回復も、弱体も、補助も……より上位の職業が存在する。
僕はなにもできず、近づいてくるルルルリーチを見つめていた。
「それでは、さようなら旅芸人。恨むのなら、旅芸人を天職と定めた自分を恨むのですよ」
ルルルリーチの拳が、僕を打ち砕こうと迫る中――
僕はその攻撃を、愛用の棍で弾いていた。
武器ガード。
職業のスキルがことごとく否定されていく中、
武器だけは……僕を裏切らなかった。
もう、棍を持ち上げることさえ苦しい。
でも……。
「まだ、戦える……! お前なんかに、負けられるか……!」
「――氷結らんげき!!」
棍の76ポイントスキル。氷属性を持つ4回連続攻撃。
旅芸人にとって、未だにメインとなる攻撃手段。
棍180スキル、戦神のベルト、闇の宝珠。
あらゆる威力強化を注ぎ込んだ特技が、闇芸人の体力を削っていく。
「ぐ……ぬうっ……! 鍛え上げられた棍の威力がこれほどとは……」
ルルルリーチが後ずさる。
「フォッフォッフォ……お強いですね。
しかし悲しいことですが、
旅芸人はこの世から差別されるのですよ」
打撃、さらに打撃。
「私はポルファンより才能がありましたが、
旅芸人などウケるわけもなく、
どこへいっても私の芸は受け入れられませんでした……。」
氷の破片が舞い散る。
「しかし、自分より才能のない多くの冒険者が成功している……。
“強職”というだけで……。
私は絶望しましたよ。
次第に旅芸人を恨むようになりましてねえ……。」
闇芸人が膝をつく。
「フォッフォッフォ。才能があったところで
世の中はそれを正しくは評価しませんよ?」
もうひと息――
その時、ルルルリーチの瞳がふたたび、あやしく輝いた。
「あなたは自分の才能が認められなくても
くさらずに“旅芸人の道”を極められますか?」
はい
いいえ
「うっ……うわぁぁぁーーーーーっ!!」
その言葉は衝撃を伴って――視界がホワイトアウトする。
…………。
……。
「ここは……いったい……?」
気がつけば僕は、色あせた世界にいた。
ここは、どこだろう。
見た覚えがある気がする……。
でも、それがどこなのか思い出せない。
『フォッフォッフォ……。
あなたもついに、迷い込んでしまったのですね。
かつて多くの旅芸人が悩み、あがき……
そしてついに抜け出すことのできなかった魂の迷路。
――闇芸人の魂は、ここで生まれるのです……』
「闇芸人の魂……? お前はいったい……」
(第6章へ続く)