「予告してやろう、弟弟子よ。1分後、お前は“死んでいる”」
「ほう……? 随分と大きく出たものですね。
旧世代の旅芸人風情が、あまり調子に乗らないことですよ」
「御託はいいさ。かかってこい。先手はお前に譲ろう」
「バカにしてくれますね……その選択を後悔するがいいでしょう!」
譲られるまでもなく、素早さの差で私の方がイニシアティブを取る。
私はまず、戦いのビートをかきならす。
次に全力の氷結らんげきを叩き込んでやろう。
もはや悪魔道化師だった頃のHPを持たないゲイザー。
旧世代の旅芸人なら、それで終わりだ。
「次はこちらの番だな。
じゃあオレは、こいつを使わせてもらう」
ゲイザーがしゃらりと広げたのは、
扇……?
「そんなものでいったい何を……?」
「こうするのさ」
「ぐあっ! これは……!」
「お前は現代の旅芸人だ。その習性として、必ず戦いのビートを選ぶ。
初手の攻撃は、ないと踏んだ」
「幻惑か……くっ」
花ふぶき。奥義スキル7ポイントで習得出来る、初歩中の初歩の特技。
霧が視界を覆い、ゲイザーの姿が霞む。だが、
「氷結らんげき!!」
氷結らんげきは4回連続攻撃。
幻惑は75%の確率で攻撃がミスになるが、確率で言えば、一発は当たる計算。
そして――
「チィッ……! やはり、無傷とはいかんか」
一撃は当たった。
闇芸人になってから使っている棍は、
旅芸人時代に鍛え上げたものではない。
だがそれでも、当時の旅芸人を考えれば、HPは半分以下のはず。
ベホイミやハッスルダンスで回復したとしても、
その間、ずっと攻め続ければ……いつかは倒れる。
元より素早さが違う。いずれ手数で勝るのだ。
「つまり……時間の問題でしかない。あなたは終わりですよ」
「そうだな……。お前の言うとおりだ。ッテテ……さすがに、これはきつい。
だが――」
ゲイザーは顔を上げ、まっすぐに私を見る。
「安心しろ。終わるのは、お前だ」
「な、にぃ……!?」
「何しろオレには、こいつが……あるからな」
見ると、ゲイザーの手には、悪魔道化師時代の三叉の“剣”が握られていた。
「ほうほう、随分と懐かしいものを持ち出しましたね。いいでしょう、受けて立ちましょう。はやぶさ斬りでも、火炎斬りでも、はたまた剣の舞でも」
「行くぞ闇芸人。旅芸人殺しの一手――!」
――トスッ。
ゲイザーの剣が、確かに……私の胸に突き立った。
「がっ……? ん? んん……?」
だが。
「んんん? 何ですか今の、攻撃……。
攻撃ですか?
こんなものが私を殺す?
なんの冗談です?
まーーったく!
ちーーーっとも!
ダメージはナッシィィーーング!!
フォーーーッフォッフォッフォ!!」
「そうだな……。
ところでホーリン。オレはな、こう見えて、けっこう怒っているんだ」
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「急にどうしたのです……命乞いですか?」
「お前はオレにとってかけがえのないものを三つ、バカにした。
オレにとっては許せないことだ」
ゲイザーのまっすぐな瞳に、まだ諦めの色はなかった。
(50)
(第11章へ続く)
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