「行くぞ“闇芸人の根源”――
旅芸人の輝きで、お前を照らしてみせる!」
元の姿を取り戻した僕は、愛用の棍をその闇の中心に向ける。
同時に、意識が――アストルティアに接続された。
僕は闇芸人ルルルリーチと戦っていた。
「闇芸人ルルルリーチ。
お前は勘違いをしている。
僕たちがどうして旅芸人を続けてきたのか」
「フォッフォッフォ……勘違い?
戦いのビートが便利だから、攻撃も蘇生も回復も、
何でもできて万能感があるから……
そんな下らない理由でしょう?
だが実際には何もできない。その無力さに、皆が絶望した」
「そうだ。旅芸人は何でもできるが何もできない。
だから特化した職業に乗り換える、たしかにそういう考え方もある。
……でも僕たちは旅芸人が強いから選んだんじゃない。
旅芸人が好きだから、ここまでやってきたんだ!!」
僕は構えていた棍をしまった。
チカラまかせのゴリ押しだけでは、
きっと、闇芸人に光は届かない。
「僕も負けて、初めて分かった。
現代の旅芸人、というだけじゃダメなんだ。
それじゃいつまでも、絶望に抗えない」
――棍のかわりに、僕が取り出したのは“扇”だった。
「闇芸人ルルルリーチ。
お前が否定した旅芸人の無力を、
師匠と……旅芸人たちの努力で、覆してみせる」
――そして僕は初手に、あえて、
「百花繚乱!」
自分一人であれば、初手で戦いのビートを使う必要はない。
「ぐおっ……! だが、大したダメージではない……!
幻惑も入っていない!
フォッフォッフォ……バイキルト状態でもないのに
扇の最大攻撃特技を浪費するとはね。
血迷いましたか旅芸人?」
「さすがに兄弟子みたいにうまくは行かなかったか。
でも“呪文耐性低下”は効いたよな?」
「ぬっ……!?」
「次に“風斬りの舞”っ!!」
僕を中心に金色の旋風が巻き起こる。
その効果は、範囲への攻撃力アップ……だけではない。
呪文威力アップの効果も付与される。
「もうバギワロスなんて呼ばせない。
食らえ――!」
「 バ ギ ク ロ ス !」
真空の竜巻が視界を白く染めた。
「ぬはぁぁっ……!」
そのダメージは500をゆうに超えて600に近い!
「な、なんだこの威力は! これがバギクロス……だと言うのですか!?」
「バギクロスの攻撃魔力キャップは305。
そこに呪文威力アップ、バギ系呪文の宝珠、
さらに風ダメージ上昇のベルト、
呪文耐性低下を加えれば……
旅芸人の呪文でも、これだけの威力が出せる!」
旅芸人たちは、バギクロスの威力の低さを嘆いた。
だが、それでも攻撃呪文に意義を見いだした者たちは
攻撃魔力を高め、ぶきみな光の技巧の宝珠を入れ、
ドラキーの魔力の歌や仲間モンスターの絆のエンブレムで
魔力覚醒効果を自分に与えた。
「だが呪文ならば防ぎようはあります。
蘇りなさいラギー、チギー、ムギー!」
ルルルリーチは懐から世界樹の葉をばらまく。
「はいはーい! 蘇ったよー!」
「ルルルリーチ様にMPパサー!」
「あとルルルリーチ様にマホターンー!」
ルルルリーチに魔力の鏡面が発生する。
マホターン――これでバギクロスを打てば、そのダメージがそのまま返ってくる。
「これでバギクロスは封じました……!
どうしますか?
またバカのひとつ覚えで棍でなぎはらうので?」
「それは最後まで取っておくよ。まずはこれだ」
「……短剣? しかし4体を相手にするには、
効率が悪いでしょう?」
「効率? そんなん知ったことじゃない!」
空から、タライが落ちる。
――ボケ!!
「ぎゃーーっはっはっは!」
「ひーっひっひっひ!」
「やばい! タライやばいよ!」
ラギー、チギー、ムギーの3体が笑い転げる。
テンション2段階上昇。
「ボケロスハント!!」
――それは。
旅芸人にはありえないほどのダメージ。
“3800”
ムギーを瞬殺。これでマホターンは使えない。
「くっ……ですがあなたももう瀕死、そう長くは保たないでしょう!
食らいなさい、ヒャダルコ! バギクロス!」
「メラミーー!」
「メラゾーマーー!」
小悪魔たちの炎の呪文、そして氷礫と竜巻の呪文に僕のHPが削られていく。HPがレッドゾーンに突入した。
だが。
「この程度の攻撃で僕を削り切れると思うなよ?
旅芸人の底力、お前に見せてやる!」
(第17章へ続く)