「ボケロスハント!」
――説明しよう!
ボケロスハントとは、ボケによって上昇したテンションからオネロスハントを放つ旅芸人の乾坤一擲の一刺し、いわゆるロマン技である。実用性は微妙! 別に旅芸人以外でも使える!
僕が放った短剣の最上位特技、オネロスハントはムギーをオーバーキル。
ルルルリーチと残った手下たちは僕に攻撃呪文を浴びせ、HPが危険域に突入する。
だが。
「ポルファン師匠……今こそ使います。
旅芸人・必殺!」
「アクロバットスター!」
回避率とカウンター率が劇的に上昇。チギーとラギーの攻撃をかわしていく。
そして。テンション1段階アップ。
「旅芸人奥義!
ベ ホ マ ズ ン (笑) !!」
HPが700近く回復し、一気に全快になる。
「なぁっ!
なんですかその回復能力は!
聖なる祈りをかけた僧侶のベホマラーに匹敵するっ……!」
「チャージタイムはあるが、そこそこの頻度で使える超ハッスルダンス。
僕が着ているのは巨商のころも、回復効果が1.3倍。
そこにテンションが1段階でも加わったら?
それはもう、味方全体を全快させる伝説の呪文、
ベホマズンに匹敵するっ……!
せかいじゅのしずくにも劣らない!」
「「なっ、なんだってーーー!!」」
「ベホマズンですと……? た、旅芸人が“勇者”気取りとは……!
なんという傲慢ですかっ!
やはり旅芸人はこの世に存在してはならない! チギー、ラギー!」
チギーの攻撃。カウンターで落とす。
返す刀でラギーを攻撃、これも落とす。
「アクロバットスターに、単純な物理攻撃が通用するものか!」
「フォ、フォッフォッフォ……。
さすがに私も驚きましたよ。
現代の旅芸人が、そこまで強いとはね……」
ルルルリーチが冷静を取り戻し、にやりと笑う。
「ですがあなたも理解しているでしょう?
それほどのチカラをもってしても
他の職業の方々には遠く及ばない。
他の職業は、もっともっと強いのだと……」
「勘違いするな闇芸人。
僕もそんなこと、分かってるさ。
僕がさっきまでの技を見せたのは……現代の旅芸人だからじゃない」
バギクロスは、風斬りの舞があって始めてまともに使える。
オネロスハントは、ボケがあって始めてダメージが伸びる。
超ハッスルダンスは、装備とテンションがあって始めて祈りベホマラーを超える。
どれも単体では、たいしたものじゃない。
「なぜ絶望しないのです!
攻撃力のなさに!
回復能力の乏しさに!
呪文攻撃の貧弱さに!
補助能力の欠如に!
弱体能力の不完全に!
旅芸人は万能。それ故に、無能なのです!」
僕はルルルリーチの言葉をかみしめ、そして思い出す。
「僕は、僕よりずっとレベルが低い兄弟子と戦って……
みっともなく負けたよ。
あの時代の旅芸人だって、工夫しだいで強敵と戦えたんだ」
それこそが、旅芸人の希望。
「みんな、それを信じて、旅芸人を続けてきたんだ」
攻撃力が足りなければ武器やアクセサリーを鍛えた。
より数値の高いベルトを求めて何度も邪神の宮殿で死線をくぐった。
回復力が足りなければおしゃれさ、回復魔力を上げる。
かつては古代王族の服、今は巨商のころもで回復力を高める。
おしゃれさを求めてルビーの腕輪を付けることもあれば、今や伝説となった、おしゃれさがついた大地の竜玉を求めた猛者さえいた。
ベホイムがないからとHPパサーを使うテクニックも生まれた。
バイシオンを一瞬でも早くかけられるよう、詠唱速度を磨き。
弱体能力が足りないと、腕装備に色々な効果をつけたこともあれば、
さっきのように呪文の威力を求めた者もいた。
HP1でしか蘇生できないザオでさえ、割合ダメージの無効化に利用した。
色々な試行錯誤があった。
だが戦いのビートが世の中に広く知られ、旅芸人は一躍、人気職に躍り出た。舞い上がってしまった。
「勘違いしてたんだ。
お前の言うとおり、旅芸人は無能だ。それは今も昔も変わらない。
だからこそ旅芸人たちは工夫を凝らし、知恵を出し合い、様々な戦法を編み出した!
そうして、本当の“万能”に近づこうと研鑽を重ねた!」
「なん……だと……っ」
「その道筋こそが旅芸人の希望なんだ。
旅芸人が輝くのは、ゴールじゃない。
いつだってその途上――」
僕はルルルリーチと。
同時に、闇芸人の根源に向けて言い放つ。
「旅をするから、“旅芸人”なんだ!」
「分かるか闇芸人。
希望はいつだって、見えるところにあった。
ただ、絶望に目を閉じてしまっていただけなんだ」
(第18章に続く)