……あれから、しばらくの時が過ぎた。
日々は慌ただしく流れていく。
ポルファン師匠に報告をすると、
彼は予想どおりの言葉を僕にくれた。
『ホーリン。オイラに、いつか見せてなあ。
笑いの極みにたどり着いたバカの芸をよお。
それができたら、伝説の旅芸人と呼ばれるぜえ』
僕はその言葉を胸に刻み、これからの日々を過ごしていこうと思う。
ナドラガンド・嵐の領界が開けると、冒険者たちは旅立っていく。
僕ももちろん、旅芸人としてその中に加わった。
新しい場所。新しい街。
それらは僕たちの心を沸き立たせた。
新たなる敵との戦いを前に、仲間たちとの絆はいっそう深まった。
そして……ルルルリーチが言っていた風斬りの舞の強化だが、
旅芸人を不要にするどころか、その逆。
戦いのビートとの2枚看板は選択肢を増やし、
旅芸人はもっと活躍しやすくなっていた。
……結局のところ、取り越し苦労だった。
何のことはない。ずっと、繰り返されてきたことだ。
けれど、忘れてはならない。
僕たち旅芸人が絶望に染まった時、再び闇芸人は現れるのだ。
だから僕たちは、工夫を重ね、誰かを信じ、前に進む。
旅芸人を、ただの無力で寂しい職業にしてしまわないように……。
旅芸人の三文字。
そこには、こんな意味があるのではないかと思う。
“旅”――旅芸人とは、旅をする者である。
ゆえに諦めずに前へと歩み続けること。
“芸”――旅芸人とは、芸を磨く者である。
ゆえに研鑽と試行錯誤を忘れないこと。
“人”――旅芸人とは、人を愛す者である。
ゆえに共に歩む友と仲間を信じること。
これらを戒めとして、残しておきたい。
大切なことを忘れない限り、僕たちはきっと、絶望に負けないだろう。
……時間は少しだけ遡る。
それは僕が、ポルファン師匠に最後の報告をした日のことだった。
サーカステントの前で、僕はオルフェアの空を見上げていた。
今日もどこまでも遠い青空だった。
その向こうに思いを馳せる。
――ニセモノの世界で出会った、もうひとりのポルファン師匠。
そして兄弟子、ゲイザー。
彼らは闇芸人の根源とともに消えてしまったのだろうか。
いや、もしかすると……。
僕は思い出す。
闇芸人の根源がいた場所は、かつて僕たちが倒した敵――
そいつが求めた、世界を作るチカラのある場所に似ていた。
もしかすると、その一部だったのかもしれない。
だとすると……あのニセモノの世界は……。
『ああ、最後にもう一つだけ――
ニセモノの世界は、このまま残りますよ。
あなたたちの世界と交わることはありませんが、
いつまでも、ずっとね……』
………………。
…………。
……。
「……それで、ポルファン師匠。
弟弟子を送り出したのはいいですけど、
オレたちこれから、どうしましょうかね?」
「なはは。オイラ、そこまで考えてなかったよお」
「師匠ぉ~~……」
「でもよお、ちっぽけな世界かもしれないけど
ここにだって、芸を見たい人、たっっくさん、いるんじゃないかなあ?
だったらやることは決まってるんだぜえ」
ポルファンはひょいっと机から飛び降りる。
「師匠……!
ルルルリーチとの戦いで負った古傷は……?」
「なはは。さすがに、キレのある芸をするのはまだまだかなあ?
でも、その代わりに、働いてくれる弟子も戻ってくれたしなあ」
「……し、師匠……オレ……」
涙ぐむゲイザーを、ポルファンはじーーっと見つめる。
「んー、だけどまあ。
おめえさん、武器のスキルばっかり上達しちゃって
肝心の芸がナマってるよなあ。ナマってるよねえ。
ちょっと街まで出て、
あの頃みたいにジャグリングの練習でもしようかあ?
ほーんの、ちょーっと、キツいけどよお?
それぐらいのハードルは、上等上等」
「し、師匠! 目が笑ってないですよっ!?
うっ……うおおおおおおーーーッ!!」
――もしかすると。
そんな世界も、どこかにあるのかもしれない。
「……なんてね」
『伝説の旅芸人への道』、CLEAR。
これが物語なら、エンドロールが流れている事だろう。
その中で、向こうの世界が続いていればいい。
僕はそんなことを思いながら、歩き出した。
伝説の旅芸人への道 2016・2017
~Fin~