(以下バージョン7.1までのネタバレがあります。)
ところで、トープスがバージョン7.1の暁の神殿で主人公たちに、7.0で出会ったトープスの正体を打ち明けます。
トープス(バージョン7.1)
「以前 メネト村で 君たちと出会った
無力な俺は 守護天使の俺が見ている
夢が さまよっていたものだったんだよ。」
夢が現実世界に現れていたと言うのです。
これに似た話は、ドラクエ9の配信クエストで、アルマトラという魔物が見た夢の中の人間女性ラテーナが現実世界に現れるというものがあり、
トープスの夢の話と意味のある偶然の一致(共時性)が起こっている可能性はうかがわれます。
そして、これらに似た話が、先ほどの心理学者ユングの自伝に描かれています。
1957年の81歳の時に書かれたもので、その4年後に他界します。
みすず書房『ユング自伝2』p.169から、少し長いですが引用します。
「自己と自我の問題について夢をみたことがある。その夢の中で、私はハイキングをしていた。太陽が輝き、私は四方を広々と見渡すことができた。そのうち、道端に小さい礼拝堂のあるところに来た。戸が少し開いていたので、私は中にはいった。驚いたことに、祭壇には聖母の像も、十字架もなくて、その代りに素晴らしい花が活けてあるだけだった。しかし、祭壇の前の床に、私の方に向かってひとりのヨガ行者が結跏趺坐(けっかふざ。ヨガの瞑想の座法)し、深い瞑想にふけっているのを見た。近づいてよく見ると、彼が私の顔をしていることに気がついた。私は深いおそれのためにはっとして目覚め、考えた。『あー、彼が私について黙想している人間だ。彼は夢をみ、私は彼の夢なのだ。』彼が目覚めるとき、私は此の世に存在しなくなるのだと私には解っていた。」
自分の顔をしたヨガ行者が見ている夢が、ユング自身なのだというのです。
また、「素晴らしい花が活けてある」というと、7.0の眠るティセの周囲には花がたくさん捧げられていて、
7.0のトープス初登場時には白いユリの花を捧げているところでした。
花冠には創生のチカラが込められていて、アスバルによると「夢の中でも ティセさんを 守ろうと チカラを込めて花冠を 作ったのだろうね」と説明があります。
7.0のポルテによると創生のチカラは生命のエネルギーに似たものだそうですが、
ここでも〝生命力の出し入れ〟について創生のチカラを使って描かれていたことがわかります。
夢や無意識に、現実世界の意識を救うメカニズムが備わっているという暗示の可能性はあるでしょうか。
さらに、「聖母の像」がないとユングは夢をみましたが、クエスト785「宿屋スィーテの地図」で守護天使像がメネト村に戻ってきます。
像がないというところが似ています。
ユングの夢に関してユング自身は同書p.170で続けてこう述べています。
「自我-意識と無意識との関係の逆転をもたらし、無意識を現実の経験をしている人格の発生源として示すことにある。この逆転は、『あちら側』の意見によると、無意識的存在が本当のもので、われわれの意識の世界は一種の幻想であり、夢の中では夢が現実であるように、特殊な目的に従って作りあげられた見せかけの現実なのではないかと、示唆している。」
ユングは現実=幻想説を唱えているようです。
なお、日本のユング研究の先駆者だった心理学者の河合隼雄氏が逝去したのが2007年7月。
ドラクエ9の発売が2009年7月。
アルマトラの配信クエストは2010年1〜2月。
ドラクエ10のトープスの夢は2024年7月。
ドラクエ9のシナリオ班や当時の成田さんや藤澤さんは河合氏の死は気にとまった可能性はあるのでしょうか。
そうでないにしても15年間夢の話を引っ張っている感じはあります。
ドラクエではなくなってしまいますが、河合氏の影響を受けていた村上春樹。
彼の小説『1Q84』は2009年5月と2010年4月に発売されましたが、ユングにまつわると思しき話が複数見られました。
メネト村の謎(3)へ続きます。