(以下バージョン7.1までのネタバレがあります。)
ユングが夢の中で礼拝堂に入ると、ヨガ行者が瞑想をしていて、その顔を見るとユング自身の顔だと気付き、「彼は夢をみ、私は彼の夢なのだ」という夢。
トープスやアルマトラの〝夢の一人歩き〟の話に似ていて、今から67年前に書かれたユングの夢の記録。
一方、誠信書房の『夢の臨床的ポテンシャル』という2020年に出版された本でユング派の研究者がこう夢解釈しています。
「この夢は、個の意識(人間の意識)がもはや存在せず、神々の意識のみになるような段階を描き出しているように思われる。そこには、個が消失した瞑想中のヨーガ行者の意識状態しか存在していない。それは神々の見ている夢である。臨床心理学や深層心理学の守備範囲がどこまでかはともかくとして、夢の射程はこのように途方もなく遠いところまでカバーしている。
とはいえ、それはやはり稀なことで、ふつうに夢を見ているだけではなかなかそこまで視野に入ってこない。」
また、この夢に対する錬金術視点での論考もあり、青土社の『錬金術の世界』(1989年英語版刊行、1994年邦訳)p.534にこう端的に書かれています。
「この夢はプロイエクティオ(投入)の精神力学をはっきりあらわして、ユングの幻視の肉体離脱体験を裏書きしている。」
錬金術の作業プロセスでの最終工程に「投入」というものがあります。
トープスの夢が「投入」かはひとまずさておき、このゲームで「投入」は恐らく3回出ていると思われ、
メレアーデ(バージョン4.0 ドミネウスに幽閉された主人公に宛てられた手紙)
「明日 あなたは処刑される。
その時が来たら 黄金の釜に
命の石を 投げ入れて。」
天使長ミトラー(バージョン6.0 神化の儀)
「続いて 誓いの証として
魂の燭台を 神化の光炉に投げ入れよ。」
もうひとつは、ユーライザの旧型神化の光炉への身投げです。
メレアーデの方は、黄金の釜に命の石が投げ入れられると、ゴールドマンが〝錬金〟されたことから、錬金術の「投入」と推論して良さそうです。
ミトラーの方は、根拠は十分とは言えないものの、ラダ・ガートの魂を封じた容器が錬金術でも使われるフラスコであったこと、錬金術で錬金される対象は黒色化→白色化→赤色化を経ますがラダ・ガートの魂は黒いにごりがあるものの全体的には赤色であったこと(この黒いにごりはムニエカの深層の黒いケガレと似ている?)、6.5前期の神化の工房にある旧型の神化の光炉のそばに錬金装置のようなものが置かれていたこと、このゲームの錬金術が参照していると思われる『ヘルメス文書』で「神化」を認識(グノーシス)の最終目標としていること、メレアーデのセリフ「投げ入れて」とミトラーの「投げ入れよ」に意味のある偶然の一致(共時性)がみられること、などから、神化の光炉も錬金術が関与していると推測しました。
ちなみに、意味のある偶然の一致では名前の類似もあり得ますが、アルマトラという名前をもし〝アル+マトラ〟と考えるなら、「アル」(アラビア語の定冠詞。錬金術の用語を作ることも)+「マトラ」(「ミトラー」の訛り)と見ることも不可能ではないと思います。
「メネト村」という名前も不可解で、バージョン6クリア後のクエスト759で、カジノVIPルームでカジノバニーの「マナト」という女性がいて、彼女が幼かった頃に彼女の祖母がミトラーの姿を見ているというのです。
なお、7.0でアマラーク城下町にフーラズーラが襲来した際、イルシームが「アムル広場」と口に出していたのですが、「アムル」はどんな意味でしょうか(amoureux「恋人」; amour「愛」など?)。「アルマ」(alma「魂」; arma「武器」など?)と比べて良いのか何とも言えないです。
ユーライザの身投げについては、日誌「ユーライザの謎(5)〜(8)」でも書いてありますが、
6.4でユーライザは謎の弱体化が起こり始めるものの、6.5後期では強力な前衛兼ヒーラーへと変貌を遂げました。
この間にあったのが、神化の工房にある旧型の神化の光炉へ自身の身を投じたことです。
現実世界の錬金術では、卑金属は貴金属に成長可能であるという考え方があり、
もし6.4での謎の弱体化が〝卑金属化〟とするなら、炉への投入という最終工程を経れば、〝貴金属化〟が可能であるはずです。
夢の一人歩きが「投入」であるとしたら、これらの3例の「投入」とはどういう関係があるのか、もしくはないのか。
果たして〝夢の一人歩き〟の解釈として正しいものはどれなのか。それとも日誌(2)(3)以外の可能性もあるのか。
今後のストーリーの進行具合を見ながら確認していく必要があると思われます。
メネト村の謎(4)へ続きます。