(以下ストーリーのネタバレはありません。)
本日都内で、京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さんの講演会があり、聴講してきました。
講演のテーマは「科学と文学 ーー生命科学の最前線から考える」で、科学が文学に及ぼす影響の可能性について、山中さんの読書経験や知見をもとに、時折客席に笑いを起こしながら、話が展開していきました。
「文学」というと広い意味ではドラゴンクエストなどのストーリー性のあるゲームも含まれると思います。
それで講演会の内容について少し触れてみます。
山中さんがかつて実験や研究を行っていた際、予想していたものと大きく異なる結果が出ることがあり、
そこで驚きと共に大きな喜びもあって、その後の人生設計にもつながったそうです。
20代後半から30代の頃何人かの先生のもとで特定の研究を行い、
特定の結果が出るであろうことがあらかじめ予想された上での実験があったそうなのですが、
なぜか想定外の結果が出てしまい、それがかえって研究への情熱を増すことにもなったそうです。
例えばマウスを使った実験で、マウスを健康体にする結果を想定してマウスに特定の処置を施したところ、
ある日マウスの腹が膨れ上がり、当初は妊娠も疑われたものの、オスのマウスも腹が膨れ上がってしまったため、
検査したところ、肝臓がパンパンに腫れ上がっていたそうなのです。
ただ、こうした予想外の結果が出たことで、山中さんはその後の研究への意欲を増すことになったそうです。
ちなみに講演中に「サイエンスフィクション(SF)」という言葉が何度か使われていて、
奈良先端科学技術大学院大学にポストが決まった際、お母様の枕元に亡くなった父が現れたなどという霊的な話もありましたが、
当初はSF的な存在だったiPS細胞が、実験を重ね成果が出ていくにつれてSFではなくなっていったそうです。
今回の講演には高校生も多く来ていましたが、山中さんは高校生に向かって、結果がわからない研究をすることや、生きた英語を若いうちに勉強しておくことを、強く勧めていました。
英語については、日本語訳のない科学論文を読めるようになるだけではなく、相手と双方向でしぐさや表情も含んだ英語でのやり取りができることが、研究生活に大きく貢献すると話していました。
そしてここ2年ほどで、ChatGPTなしでの研究はありえないと言えるまでにChatGPTを研究生活に役立てているそうです。
執筆した論文を校正するのに用いたり、最近は呼吸器内科の医師に投げかけたものと同じ質問をChatGPTにしたところ、精度の高い回答が得られたそうです。
ただ、そうしたAIでは割り切れないのが人の心であるとも考えているようでした。
山中さんが趣味と実益(研究費の確保)を兼ねて行なっているマラソンを通じて小説家の村上春樹さんとの交流もあるそうで、今回は村上さんが山中さんを招聘するという形での講演となり、二階席に村上さんが来ていたようです。
『羊をめぐる冒険』という村上さんの代表作のひとつを山中さんは挙げ、その内容に大きな衝撃を受けたそうです。
どこまでが現実でどこからが非現実なのか。曖昧な境界が文章化されていることに小説の可能性を感じたそうです。
「心で考える」というのが、山中さんや村上さんに共通した信念のようで、先ほどのマウスの一件でも予想外の結果で刺激された心が、続く研究の計画や過程を考える原動力になったそうですし、
『羊をめぐる冒険』などの現実と非現実が判然としづらい小説でも、理屈で現象の説明がつかなくても、小説に動かされた心をもとに推論することが、鑑賞に役立っていたようです。
このゲームで、キャラクターの理不尽な死が相次ぐ場面があったり、現実世界の科学では説明のつきそうにないSF的な現象やギミックが描かれることがあったりしましたが、
オンラインRPGゆえにストーリーが少しずつ追加されていく事情もあり、当初の予想では思い付かないキャラの死が発生したり、唐突に現れた謎の装置が一体どういうテクノロジーによるのかわからないということもありました。
ストーリーの各所に埋め込まれた謎を推論し、時には裏切られるのが、むしろSFの醍醐味だと思います。
講演の終盤で山中さんが、文系理系の壁はないようなもので、科学の研究でも哲学的な見方も必要になると話していました。
そしてさらっと、他人と同じことをしないようにしている、という主旨で話していました。
自身の意見の独自性を大事にしているようで、だからこそ研究の意欲が少しも衰えることがないのだと思います。
それにしても、他人の生の声を聞くというのは、本を読むのでは得にくい感情の揺さぶりが起きたり、語り手の表情や声の情報・観客の反応が付随することで楽しさがすごかったです。
おわり